公開日:2025.11.09 更新日:2025.10.27
NEW遺産相続税を徹底解説!基礎知識から計算方法・節税対策まで
相続は、被相続人(亡くなった方)の財産を受け継ぐ際に発生します。相続税はその財産に対して課される可能性のある税金です。相続の場面では、どのくらいの財産から税金がかかるのか、どんな控除が使えるのかなど、知っておくべきポイントが多く存在します。
そこで本記事では、相続税の基本的な仕組みから基礎控除額の計算の流れ、控除・特例を活用した節税のコツまでを解説します。正しい知識を身につけ、安心して次世代へ財産を引き継ぐ準備を始めましょう。
目次
相続税の基本概要

近年の不動産価格の上昇や相続制度の見直しによって、相続税の課税対象となる人が増えています。これまで「自分には関係ない」と思っていた方も、今や他人事ではないかもしれません。
まずは、相続税がなぜ存在するのか、どんな財産に課税されるのかを正しく理解しておくことが大切です。まずは相続税の基本的な仕組みと、課税対象となる財産の種類を解説します。
相続税がなぜ発生するのか
相続税が設けられている背景には、財産の集中を防ぎ、社会全体のバランスを保つという目的があります。特定の人や家系に資産が偏りすぎると、経済的な格差が広がりやすくなるため、国は「資産の再配分」を促す仕組みとして相続税を課しています。一方で、すべての家庭が相続税を支払うわけではありません。基礎控除が設けられており、遺産総額が一定の金額を超えた場合のみ課税されます。
実際に相続税を支払う人は全体の約8〜10%程度とされており、自身の遺産が課税対象に当たるかどうかを正確に把握することが大切です。
課税対象となる財産の種類
相続税の課税対象となる財産は多岐にわたります。代表的なものは、自宅や土地などの不動産、現金・預貯金、株式や投資信託などの有価証券です。
さらに、宝石や貴金属、美術品なども評価額をつけて遺産の一部として扱われます。 評価方法は法律で定められており、土地は「路線価」や「倍率方式」、建物は原則として「固定資産税評価額」、有価証券は「取引相場のあるものは、主に課税時期の終値など」が基準です。
なお、相続財産としての不動産の評価は、相続税法に基づき財産評価基本通達に定められた方法で評価します。
生命保険金や死亡退職金については、相続税法上非課税の仕組みが設けられていますが、非課税限度額を超えると、超過部分が「みなし相続財産」として課税対象になります。具体的には、生命保険金では「500万円×法定相続人の数」が非課税限度額の代表例です。
基礎控除といくらから相続税がかかるのか

相続税は、すべての相続に必ず発生するわけではありません。課税の有無を左右するのが「基礎控除」と呼ばれる仕組みです。遺産総額がこの基礎控除額を下回る場合には、相続税がかからず、申告も不要になるケースが多いのが特徴です。
ここでは、相続税の計算で最初に確認すべき基礎控除の考え方と、自分の家庭が課税対象になるかを判断するためのチェック方法について触れていきます。
基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人」の仕組み
基礎控除は、相続税の計算で最初に差し引かれる控除額です。計算式は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で求められ、相続人が増えるごとに600万円ずつ控除額も大きくなります。
たとえば相続人が3人であれば、3,000万円+600万円×3=4,800万円が基礎控除額となり、課税対象となる財産総額(債務控除後)がこの金額を超えない場合には相続税がかかりません。(原則として申告不要。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など特例適用で納付すべき税額がゼロになる場合は適用を受けるために申告が必要です)
ただし、土地や建物などの不動産は想定よりも高い評価額になることも多く、思いがけず課税対象となるケースもあります。そのため早い段階で資産の全体像を把握し、必要に応じて税理士などの専門家に相談も視野に入れておくと安心でしょう。
課税対象額を超えるかどうかのチェック方法
まずは、相続する可能性のあるすべての財産をリストアップし、預貯金・有価証券・不動産などの評価額を合計してみましょう。そのうえで基礎控除額を差し引き、課税対象となるかどうかを確認します。
このとき、生命保険金の非課税枠など、税法上「非課税」とされる項目を除外して計算することも重要です。
もし合計額が基礎控除を上回る場合には、早めに税額の試算を行い、申告や節税の準備を進めましょう。
明らかに基礎控除内に収まる場合は、相続税申告を行う必要はほとんどありません。その後の手続きや節税対策に時間や費用を割く必要も小さくなるでしょう。
相続税の計算プロセス

相続税の計算は、財産の洗い出しから控除の適用、税率の判定、そして各人の納付額の算定へと段階的に進みます。この流れを理解しておけば、漏れや誤りを防ぎやすくなります。ここでは3つのステップに分けて解説します。
ステップ1:課税遺産総額の算出
まず、相続の対象となり得るすべての財産を把握し、総額を計上します。次に、生命保険金や死亡退職金の非課税枠を差し引き、被相続人の債務や葬式費用など、「非課税財産」や「債務・葬式費用」などを控除できる項目を忘れずに反映します。
これらを差し引いた残りが課税価格の合計額です。不動産評価や有価証券の時価などは算定を誤りやすいポイント。後で追徴や過払いが生じるおそれもあるため、資料を揃え、慎重に確認しながら作業を進めましょう。
ステップ2:相続税の総額を求める
課税遺産総額を、民法上の法定相続分どおりに各相続人へ仮に按分し、その按分額に相続税率(10%〜55%の累進税率)を適用します。
各人の税額を合算したものが相続税の総額です。ここでは配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など、適用可能な制度の有無が結果を左右します。
単純な税率表当てはめにとどまらず、条件に合う特例・控除を丁寧に洗い出すことが、無理のない納税計画につながります。
ステップ3:各相続人の相続税額を計算する
ステップ2で求めた総額を、実際の遺産分割割合に応じて各相続人へ配分します。法定相続分と実際の取得分が異なる場合は、この時点で負担額にも差が出ます。
あわせて、配偶者控除や未成年者・障害者控除、外国税額控除、贈与税額控除など、個別に適用できる控除を反映。控除後の金額が各人の最終的な納付額になります。
相続税率と早見表の見方

相続税の計算では、課税される金額に応じて税率が変わる「累進課税方式」が採用されています。税率は10%から最大55%まで段階的に上がり、遺産額が大きくなるほど負担が増える仕組みです。ここでは、相続税の税率を確認するための「速算表の見方」と、実際のシミュレーション事例をもとに、計算の流れを紹介していきます。
税率速算表の活用方法
相続税の速算表は、課税遺産総額ごとに適用される税率と控除額をまとめた早見表です。
たとえば、法定相続分で仮に按分した課税遺産総額が3,000万円を超え6,000万円以下の場合、税率は15%となり、速算表に示された控除額を差し引いて最終的な税額を計算します。
ただし、実際の計算では「課税遺産総額を法定相続人の人数で仮に按分する」など、いくつかのステップを踏む必要があります。
数値を誤って当てはめてしまうと税額が大きくずれることもあるため、不安な場合は税理士などの専門家に確認するのがおすすめです。
遺産額別シミュレーション事例
具体的なイメージをつかむために、課税遺産総額が4,000万円の場合を見てみましょう。
この場合、税率は15%で、速算表で定められた控除額を引いたうえで税額を算出します。さらに、配偶者控除や小規模宅地等の特例など、各種控除を反映した上で最終的な納付額が確定します。
一方、課税遺産総額が1億円を超えるような高額なケースでは、税率が30%以上になることもあり、累進課税の影響がより大きくなります。こうした違いを把握し、自身のケースでどの程度の負担が想定されるのかを早めに確認することで、適切な準備を進めることができるでしょう。
相続税を軽減する主な控除と特例

相続税には、家族構成や相続する財産の内容によって税負担を軽くできる控除や特例が数多く用意されています。これらを上手に活用することで、納める税額を大きく抑えられるケースも少なくありません。続いて、代表的な控除・特例の仕組みと注意点を見ていきましょう。
配偶者控除(配偶者の税額軽減)
配偶者控除(正式名称:配偶者に対する相続税額の軽減)は、相続税の中でも最も大きな減税効果が得られる特例です。
具体的には、「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までは、配偶者に相続税がかからない仕組みとなっています。
ただし、この控除を受けるには遺産分割協議が成立したうえで相続税の申告が必須であり、遺産分割の状況や相続人の構成によっては適用されない場合もあります。「配偶者だから自動的に対象になる」と思い込むのは禁物です。実際の判定は細かいため、早い段階で税理士などの専門家に相談して確認しておくと安心です。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、被相続人が居住用または事業用に使っていた土地の評価額を大幅に減額できる制度です。 条件を満たせば、最大で330㎡まで評価額の80%を減額できるため、自宅や事業用不動産を引き継ぐ際の相続税を大きく軽減できます。
しかし適用には細かな要件があります。たとえば相続人がその土地に引き続き住み続ける、または事業を継続するなどの条件を満たす必要があります。
申告書の提出時に要件を満たしていない場合、特例が無効になるおそれもあります。対象となる土地の利用状況や居住実態を慎重に確認しておきましょう。
未成年者控除・障害者控除・相次相続控除
未成年者控除は、相続時に18歳未満の相続人がいる場合に適用され、満18歳に達するまでの年数(1年未満の端数は切り上げ)に応じて(1年につき10万円)相続税が一定額軽減されます。障害者控除は、障害者に該当する相続人に対して適用されるもので、障害の程度や年齢によって控除額が決まります。
また相次相続控除は、10年以内に相続が重なるようなケースで、前回の相続時に支払った税額の一部を差し引ける制度です。これらの控除は、それぞれに申告書類や証明書が必要となります。
家族の状況に応じて適用できる制度を把握しておくことが、税負担の軽減や手続きの安心感につながります。
生命保険金・退職手当金の非課税枠

生命保険金や退職手当金には、相続税を軽減できる「非課税枠」が設けられています。どちらも遺族の生活を支えるための性質が強く、一定の金額までは課税対象から除外される仕組みです。ここでは、それぞれの非課税枠の計算方法と注意点を解説します。
死亡保険金の非課税枠
生命保険の死亡保険金には、「500万円×法定相続人の数」という非課税限度額が適用されます。
たとえば法定相続人が3人いる場合は、1,500万円までが非課税となり、それを超えた部分のみが課税対象です。この制度は、残された家族の生活を守るために設けられたものといえます。
ただし、保険金の受取人が誰に指定されているかによって扱いが異なる場合があります。 また、複数の契約に分かれている場合は、それぞれの契約内容や受取人を正確に把握しておくことが重要です。意図しない課税を避けるためにも、保険契約書や受取人指定の確認を欠かさず行いましょう。
退職手当金の非課税枠
死亡退職金も生命保険金と同様に、「500万円×法定相続人の数」まで非課税となります。ただし、この非課税の恩恵を受けられるのは、受給者が「相続人」である場合に限られます。
これは、退職金が遺族の生活保障のために支払われる性質を持つことを踏まえた制度です。 この非課税枠は生命保険金とは別枠で計算できるため、両方の非課税を併用することで大きな節税効果を得られる可能性があります。
勤務先から退職手当金が支給される場合は、支給額の明細や受取時期を確認し、相続税の申告書に正しく反映させましょう。非課税の適用を受けるには一定の書類提出が必要となるため、早めに準備を進めておくと安心です。
生前贈与の活用と注意点

相続税の負担を軽減する方法として、早い段階から生前贈与を検討する方が増えています。生前贈与は、相続が発生する前に財産を分けておくことで、将来的な税負担を抑えられる手段の一つです。
ただし、贈与のタイミングや金額、制度の選び方を誤ると、かえって税金が増えてしまう場合もあります。生前贈与を上手に活用するためのポイントと注意点を解説します。
贈与税との関係と非課税枠
生前贈与を行う際には、まず贈与税との関係を理解しておくことが重要です。
贈与税は、個人が無償で財産を受け取った際に課される税金で、年間110万円までの贈与であれば非課税となります。 そのため、まとまった財産を一度に移すよりも、複数年に分けて少しずつ贈与することで、贈与税をかけずに資産を移すことが可能です。
ただし、被相続人の死亡前7年以内に行われた贈与(2024年1月1日以降の贈与について加算期間が段階的に延長され、最終的に7年となる)は、「相続開始前7年以内の贈与加算」として相続財産に加算される点に注意が必要です。
暦年課税制度・相続時精算課税制度
生前贈与には主に、暦年課税制度と相続時精算課税制度の2つがあります。 暦年課税制度では、1年間に贈与された金額から基礎控除額の110万円を差し引いた残額に対して贈与税がかかります。この制度は、受贈者一人あたり年間110万円が非課税となる仕組みです。
少額贈与をコツコツ続ける場合に適しており、手軽に利用できる制度です。
一方で相続時精算課税制度は、2,500万円までの贈与を非課税とする代わりに、相続の際にその金額を相続財産に加えて税額を計算する仕組みです。今のうちに子どもに資金を渡したい、住宅取得を支援したいといったケースに有効ですが、選択後は暦年課税に戻せません。
節税効果だけでなく、家族の将来設計や資産全体のバランスを考慮して制度を選ぶ必要があるでしょう。
二次相続で注意すべきポイント

配偶者が一次相続で財産を受け継いだ後、その配偶者が亡くなった際に発生する二次相続では、思わぬ課税負担が生じることがあります。
一次相続では配偶者控除などによって税額が大幅に軽減される一方で、その分、残された配偶者の相続財産が増えるため、二次相続時には課税額が高くなる傾向があるのです。
こうしたリスクを回避するためには、最初の相続の段階から将来の二次相続を見据えて財産を分けることが大切です。子どもへ一部を早めに贈与する、生命保険や不動産の分配バランスを工夫するなど、複数の選択肢を検討しましょう。
家族間でしっかり話し合い、長期的な相続設計を行うことで、将来的な税負担を軽減し、安心して財産を引き継ぐことができます。
相続税の申告・納付の流れ
相続税の申告と納付は、期限や必要書類が明確に定められており、スケジュールを意識して進めることが不可欠です。期限を過ぎると、延滞税や加算税が発生する可能性があるため、早めの準備を心がけましょう。
相続税申告の基本的な流れと、提出時に必要となる書類について解説していきます。
申告期限は10か月以内
相続税の申告と納付は、被相続人が亡くなった翌日から10か月以内に行う必要があります。 この期限を過ぎると、延滞税や無申告加算税が課せられる場合があるため、注意が必要です。
やむを得ない事情で納付が難しいときは、延納や物納といった制度を利用することも可能ですが、どちらも一定の条件や審査が設けられています。
そのため、期限ぎりぎりに焦って準備を進めるよりも、相続開始後できるだけ早い段階で専門家に相談し、計画的に対応しましょう。
必要書類と提出先
相続税申告に必要な書類は多岐にわたります。代表的なものとして、被相続人の戸籍謄本、遺産分割協議書、財産目録、相続人全員の戸籍や住民票、固定資産評価証明書などが挙げられます。これらの書類は、相続人の関係性や財産の内容を明確に示すために欠かせません。
提出先は、被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署です。 書類に不備や記載漏れがあると、申告が受理されなかったり、修正対応に追われたりするリスクもあります。書類の取得先や提出順序を事前に確認し、余裕をもって準備を進めることが求められます。
専門家への相談と選び方

相続税の申告や節税対策は複雑なケースが多く、自己判断だけで対応するのはリスクを伴います。税法改正や特例制度の細かな要件など、一般の方がすべてを正確に把握するのは難しいため、早めに専門家へ相談するのが賢明です。税理士や弁護士など、相続分野に強い専門家と連携することで、申告漏れや計算ミスを防ぎ、適切な節税につなげることができます。
専門家を選ぶ際は、相続案件の実績や得意分野を確認しましょう。家族構成や財産の種類によって必要な知識や対応力が異なるため、自分の状況に合った専門家を選ぶことが大切です。
さらに、料金体系が明確で、相談しやすい雰囲気かどうかも重要な判断基準です。信頼できる専門家と出会うことで、安心して相続手続きを進められるでしょう。
いざという時のために知っておきたい遺産相続税
誰にでも起こり得る身近な問題ともいえる相続税。しかし、実際には手続きや計算方法が複雑で、つい後回しにしてしまう方も少なくありません。
まずは、基礎控除額をもとに課税対象となるかを確認し、配偶者控除や小規模宅地等の特例など、使える制度を正しく理解しておくことが重要です。これらを上手に活用することで、税負担を抑えながら円滑な資産承継が可能になります。
また、申告期限は被相続人が亡くなった翌日から10か月以内と短いため、必要書類の収集や財産評価の準備は早めの着手がおすすめです。一次相続だけでなく、二次相続も見据えた長期的な視点を持つことが、結果的に最善の選択となるでしょう。
専門家に相談しながら、今のうちから計画的に相続対策を始めてみてはいかがでしょうか。
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この記事の監修者
白崎 達也 アキサポ 空き家プランナー
一級建築士
中古住宅や使われなくなった建物の再活用に、20年以上携わってきました。
空き家には、建物や不動産の問題だけでなく、心の整理が難しいことも多くあります。あなたが前向きな一歩を踏み出せるよう、心を込めてサポートいたします。