公開日:2025.10.25 更新日:2025.09.29
NEW家族信託(ファミリートラスト)とは?今さら聞けない基礎知識を徹底解説|成年後見制度との違い・費用
「親が認知症になったら、実家の不動産や預貯金はどうなるのだろう?」と不安に感じたことはありませんか?高齢化が進む現代において、親の老後の財産管理は多くの方が直面する課題です。
そんな悩みを解決してくれるのが「家族信託(ファミリートラスト)」という制度です。全国的な高齢化に伴って、資産を柔軟に管理できる制度として注目されています。
そこでこの記事では、家族信託の仕組みやメリット・デメリット、手続きの流れや費用の目安までをわかりやすく解説します。早めに備えておくことで、家族全員が安心できる仕組みづくりに役立てましょう。
目次
家族信託とは?仕組みと基本を押さえよう

家族信託(ファミリートラスト)とは、信託法に基づき、財産を持つ人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理や運用、処分を任せる「信託」という財産管理手法の一つです。財産の所有権と管理権を分けて扱えるため、財産の所有者が財産の管理や運用、処分ができない状態になった場合でも、受託者が継続して資産を扱うことができます。
たとえば、親が元気なうちに家族信託の信託契約を結んでおいて、親が認知症になったあとに本格的に家族信託制度を運用するような使い方ができます。
近年では、日本の高齢化と、それに伴う認知症リスクの拡大を背景に、家族が財産を守る手法として家族信託が注目を集めています。また、生前から相続の準備をしておきたい場合や、介護費用に本人の預金を利用したい場合などにも活用されています。
また、成年後見制度に比べて財産管理の柔軟性が高く、遺言では難しい複数世代にわたる長期的な資産承継が可能である点も、注目される理由として挙げられます。
ただし、家族信託は万能な制度ではありません。財産管理の権限はすべて受託者に移るわけではなく、信託契約で定めた目的と範囲内で受託者が管理・運用を行います。そのため、契約内容を明確にすることが非常に重要です。
家族信託の委託者・受託者・受益者
家族信託を始める前に覚えておきたいのが「委託者」「受託者」「受益者」という3つの役割です。それぞれの役割は以下のとおりです。
- 委託者:財産を所有し、その財産の信託を行う人
- 受託者:財産の信託を受ける人
- 受益者:信託財産から生じる利益(収益や使用収益権)を享受する権利を持つ人
親や祖父母が委託者、子や孫が受託者、委託した親や祖父母が受益者になるケースが多いです。ただ、必ずしも委託者と受益者はイコールにする必要はなく、家族の状況に応じて配偶者や子や孫に設定することも可能です。
成年後見制度との違いは?

家族信託とよく比較される制度に「成年後見制度」があります。成年後見は、判断能力が低下した本人に代わって、家庭裁判所の監督のもとで、後見人という役割に指定された第3者が、財産管理や契約行為を行う仕組みです。この第3者は家族に限られず、司法書士や弁護士といった専門家や福祉関係の法人などが指定される場合もあります。
後見人が行えるのは、本人の生活や療養に必要な財産の管理・処分など、法律で定められた範囲に限定されます。
一方、家族信託は、契約の範囲内であれば、受託者は財産を柔軟に扱うことができます。特に支出に関しては、生活費のような必要最低限の範囲だけでなく、介護施設の費用を確保するために不動産を売却するといった一歩踏み込んだ行為も可能になります。
なお、家族信託の開始には家庭裁判所の関与は不要です。ただし、信託事務が適切に行われているかを確認する「信託監督人」や、信託の目的が達成された場合にその旨を判断する「受益者代理人」を定めることもできます。
家族信託のメリット
家族信託は、その柔軟性から、ほかの制度にはない以下のようなメリットがあります。
- 認知症などで判断能力を失った後でも、資産凍結を回避できる委託者が判断能力を失っても資産が凍結されず、受託者が継続して管理できるため、生活費や医療費の支払いに支障が出ない
- 柔軟な設計が可能
契約で「誰に・いつ・どのように財産を渡すか」を細かく定められる。不動産の売却や事業承継なども可能 - 生前から活用できる
死後効力を発揮する遺言と違い、生前から始められる。相続対策と日常の資産管理を一体的に進められる強みがある
上記のことから分かるように、家族信託は柔軟性や実効性が高く、場合によっては遺言書や成年後見制度の代わりに用いることもできます。
運用の前提として、家族間の信頼関係が前提になる点には注意が必要ですが「資産凍結を避けたい」「承継先を自由に設計したい」と考える人にとって、家族信託は有力な選択肢となるでしょう。
家族信託の活用シーン
家族信託は、その柔軟性の高さから、使い方次第で相続や事業承継、さらにはリスク回避といった多彩な使い道が可能です。ここでは代表的な活用シーンを順に見ていきましょう。
親や祖父母の認知症対策
家族信託の代表的な活用方法が、財産の所有者である親や祖父母の認知症対策です。親や祖父母が認知症になって判断力を失った場合、銀行口座の出金や不動産の売却は原則できなくなって支払いに困るケースがありますが、あらかじめ家族信託の契約を結んでおけば、その心配はありません。
特に「父が認知症になった場合、母が安心して生活費を引き出せるように契約を結ぶ」といった使い方がよく見られます。
相続対策や遺産承継
家族信託は、生前から相続を見据えた仕組みを動かせる点が大きな強みです。遺言と違い、本人が元気なうちに承継のルールを定められるため、将来の混乱を避けられます。
また「受益者連続信託」という制度を利用すれば、複数世代に渡った承継も可能になります。これは遺言書にはできないことなので、財産を代々承継していきたいという方にとっては有力な選択肢になるでしょう。
収益不動産の管理や円滑な事業承継が可能
不動産や事業を持つ家庭にとっても家族信託は便利です。これらの所有者が動けなくなった場合、受託者が賃貸経営や事業運営を引き継ぐため、資産や事業の継続的な運用が可能です。
たとえば、父名義の賃貸マンションを子どもが受託者となって管理し、家賃収入を両親の生活費に回したり、経営者である父が第一線を退いたあとに、子がそのまま事業継続をするといった使い方が挙げられます。
家族信託のデメリットと注意点

家族信託は柔軟な制度である一方、万能ではありません。仕組みを誤解したまま導入すると、期待通りに機能しないだけでなく、家族間のトラブルにつながるおそれもあります。そこで、ここでは特に注意しておきたい代表的なデメリットを見ていきましょう。
身上監護権が含まれない
家族信託では、財産管理はできても、介護施設への入所契約や医療行為の同意といった生活・身の回りの意思決定を代わりに行う権限である「身上監護権」は含まれません。
そのため、信託契約を結んでも「介護施設に入るかどうか」「手術を受けるか」といった判断は、成年後見制度のような別制度で対応する必要があります。
受託者の責任が重い
家族信託では、財産を託された受託者の権限が大きい分、責任も重くなります。信託財産の管理・運用・記録をすべて担うことになるため、財産の数が多いと管理の手間が大きくなる可能性もあります。
また、受託者が管理を怠ったり不正を行ったりすれば、損害賠償責任を負う可能性もあります。たとえば、不動産を家族に信託した場合、受託者となった家族が固定資産税の納付や修繕対応を怠れば、結果的に資産価値が下がってしまう可能性があります。
受託者は「家族だから安心」という気持ちだけで安易に引き受けるのではなく、責任の範囲や負担を十分理解したうえで契約を結びましょう。
親族間の合意形成が困難な場合がある
家族信託は契約内容の自由度が高い分、親族間での合意形成が、なかなか得られないケースがよくあります。特に「誰を受託者にするか」「利益をどのように分けるか」といった点は意見が割れやすいポイントです。
合意を得ないまま契約を進めると、あとから「不公平だ」と不満が噴出し、かえって家族関係を悪化させるリスクがあります。そのため、導入前に関係者全員が納得できるよう丁寧な話し合いを重ねることが欠かせません。
家族信託の手続きの流れ

家族信託を始めるには、いくつかの段階を踏む必要があります。専門家のサポートを受けながら順序立てて進めれば、契約後のトラブルを避け、スムーズに運用を始められます。ここでは一般的な流れを整理してみましょう。
①家族信託の依頼先を検討する
家族信託の手続きやアドバイスなどを依頼する専門家を探す。中でも司法書士は不動産の信託登記も含めて対応できるため便利
②受託者と信託の目的・範囲、信託終了時の財産帰属先を決める
受託者の権限と責任の範囲を契約で明確にする。帰属先を具体的に決めることで後のトラブルを防げる
③必要書類の収集と確認
不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書、預金通帳など、信託対象となる財産に関する資料を準備する
④信託契約書の作成と公正証書化
契約内容を整理し、公証役場で公正証書にしておくと、後の紛争リスクを大幅に減らせる。トラブルを避けるために曖昧な表現を避け、権限や責任を明確に記述する
⑤信託財産の管理準備(登記・口座開設)
不動産を信託する場合は登記手続きが必要。さらに信託専用口座を開設して資金を分けることで、受託者の固有財産と区別でき、管理の透明性を保てる
⑥家族信託開始後の事務手続き
信託開始後は受託者は財産の管理・運用・収支報告を定期的に行う。トラブルを避けるために、記録の保存や報告方法をあらかじめ決めておく
ここで気を付けたいのが、専門家に依頼する範囲です。専門家に依頼する範囲は少ないほど費用を抑えられるため、最小限にしたいと考える方も多いと思いますが、専門知識がない個人が作成すると、あとになって不都合が出てくる恐れがあります。最初から最後まで、実務に基づいたアドバイスをもらいながら進めることをおすすめします。
家族信託にかかる費用と相場
家族信託を導入する際には、契約書作成や登記、公証役場での手続きなどに一定の費用がかかります。ここでは、自分で進める場合の費用と専門家に依頼する場合の費用、公正証書作成や信託登記にかかる費用を紹介します。
家族信託にかかる基本的な費用
家族信託を行う際の基本的な費用項目は以下のとおりです。
- 契約書作成時にかかる印紙代:200円
- 公正証書の作成費用(目的の価額によって変動/下記の表のとおり)
- 不動産の信託登記を行う際に必要な登録免許税:不動産評価額の0.4%
公正証書作成時の公証人手数料
| 目的の価額 | 手数料 |
| 100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
| 500万円を超え1,000万円以下 | 17,000円 |
| 1,000万円を超え3,000万円以下 | 23,000円 |
| 3,000万円を超え5,000万円以下 | 29,000円 |
| 5,000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
| 1億円を超え3億円以下 | 43,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を加算 |
| 3億円を超え10億円以下 | 95,000円に超過額5,000万円までごとに11,000円を加算 |
| 10億円を超えるもの | 249,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算 |
| 算定不能のもの | 11,000円 |
ちなみに、公正証書は必ず作成する必要はありませんが、信託契約の効力を担保するために非常に有効なので利用することをおすすめします。
公正証書は、信託契約が有効なものであることを公的に証明できるため、後々の親族間でのトラブルや紛争を防ぐ意味で有効な費用と言えます。
専門家(司法書士や弁護士)へ依頼する場合の費用
家族信託契約の締結は個人で行うこともできますが、契約内容を間違いなく整えたいなら、司法書士や弁護士といった専門家への依頼が現実的です。
依頼料は信託財産の内容や件数、契約の複雑さによって変わり、50万円前後が一般的です。財産の種類が多いほど高額になる傾向があります。
高額な費用がかかる一方で、専門家に依頼することで契約内容の不備を防ぎ、将来的な家族間の紛争リスクを大幅に低減できるメリットがあります。相続や成年後見制度との連携も含め、長期的な視点で資産管理を検討したい場合に有効な選択肢です。
まとめ|家族信託で安心を支える仕組みを始めよう
家族信託は、将来の資産凍結を防ぎ、生活費や介護費用を柔軟に確保できる頼もしい制度です。ただ、受託者には大きな責任が伴い、契約内容によってはトラブルの火種となる場合もあるため、導入を検討する際は「誰を受託者にするか」「財産をどう承継させるか」を家族で丁寧に話し合いましょう。
実際に始める際には、信託契約や登記、公正証書の作成といった専門的な知識が必要になるので、司法書士や弁護士に相談しながら進めましょう。今後の資産管理や相続対策に取り組みたいと考えている方は、早めに家族信託を検討し、家族の未来を守る仕組みづくりを始めてみましょう。
この記事の監修者
白崎 達也 アキサポ 空き家プランナー
一級建築士
中古住宅や使われなくなった建物の再活用に、20年以上携わってきました。
空き家には、建物や不動産の問題だけでなく、心の整理が難しいことも多くあります。あなたが前向きな一歩を踏み出せるよう、心を込めてサポートいたします。