公開日:2025.09.10 更新日:2025.08.04
NEW相続税の基礎控除とは?計算方法から控除制度まで徹底解説

相続時に課税される相続税ですが、中には資産が少ないから相続税はかからないと思っている方もいると思います。しかし実際には、不動産や生命保険などを含めた財産の総額が基礎控除額を超えると、一般家庭でも相続税の申告が必要になる可能性があります。2015年に基礎控除額が引き下げられたことで、以前より多くの人が課税対象になり得る状況となっています。
そこでこの記事では、相続税の基礎控除の仕組みや計算方法、法定相続人のカウント方法、そして控除制度を活かした納税額の抑え方までを、事例を交えて分かりやすく解説します。
相続手続きで損をしないためにも、制度の基礎を正しく理解し、早めに準備を始めておきましょう。
相続税の基礎控除の基本知識

相続税の基礎控除とは、一定額までの遺産に相続税がかからない非課税枠のことです。遺産の総額がこの枠を下回る場合は相続税の申告や納税は不要になります。
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という式で決まり、基本的には相続人が多いほど非課税枠も広がります。
なお、基礎控除額は2015年の税制改正で「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」から現在の額まで引き下げられました。それに伴って、以前より相続税の課税対象となる人が増えました。
相続税の基礎控除が必要となるケースと該当しないケース
相続税の申告が必要になるのは、遺産総額から債務や葬式費用などを差し引いた「課税価格」が、算出した基礎控除額を超える場合です。
一方で、課税価格が基礎控除内におさまっていれば、相続税はかかりません。たとえば相続人が多い場合や、遺産が少額なケースでは、申告そのものが不要になる場合があります。
ここで注意したいのが、所有している不動産や非上場株式などの評価額が高く、結果的に課税対象になるケースです。特に評価が複雑な資産を含む場合は、将来の相続を見越して専門家に相談し、試算しておくことをおすすめします。
2015年の制度改正で控除額が縮小した背景
2015年に相続税の基礎控除額が引き下げられた大きな理由は、それまで弱まっていた相続税の再分配機能を回復させることです。それ以前の基礎控除額はバブル期の地価高騰に対応して引き上げられたもので、その後地価が下落しても制度は見直されず、相続税の負担は以前に比べて大幅に軽減されていました。
その結果、都市部に不動産を持つような一定の資産保有者であっても課税対象から外れるケースが生じ、税負担の公平性や資産の再分配機能に対して課題が指摘されていたのです。
こうした状況を受けて、2015年の税制改正では、課税ベースを広げて相続税の役割を本来の姿に近づけるために、現在の額まで引き下げられました。
法定相続人と基礎控除の関係

法定相続人の数は、1人違うと基礎控除額が600万円も変動するので、必ず正確にカウントする必要があります。1人の違いが相続税が発生するかどうかを決めることも十分あり得ます。
法定相続人は代襲相続や養子縁組、相続放棄といった民法上のルールに基づいて決定されます。ここでは、法定相続人を数える際の基本ルールと、代襲相続や養子縁組などの特殊なケースの扱い方を解説します。
法定相続人を数える際の基本ルール
まず、被相続人に配偶者がいる場合、その人は常に相続人として含まれます。また、配偶者以外の相続人には以下のような優先順位があります。
- 第一順位:子ども(実子・養子・代襲相続を含む)
- 第二順位:親・祖父母などの直系尊属(子がいない場合)
- 第三順位:兄弟姉妹(子も直系尊属もいない場合)
たとえば、被相続人に配偶者と子どもがいる場合は法定相続人はその2人です。子どもがいない場合には、第二順位の配偶者と親(または祖父母)が相続人となります。もし配偶者から第二順位までの親族が誰もいない場合には第三順位の兄弟姉妹が相続人となります。さらに、第三順位の相続人もいない場合には、民法第959条により財産は国庫に帰属します。
ここで注意すべきなのは、遺言書で財産を誰かに渡すよう指定していた場合でも、基礎控除の人数はあくまで民法上の法定相続人の数で判断されるという点です。遺言の内容で人数を見積もると、控除額を誤って算出してしまう恐れがあります。
代襲相続・養子縁組・相続放棄における人数の変動
法定相続人の人数を正確にカウントするうえで注意したいのが、代襲相続・養子縁組・相続放棄といった制度です。これらは相続人の範囲や人数に影響を与え、基礎控除額にも直接関係してきます。
たとえば、被相続人の子どもが相続開始前にすでに亡くなっていた場合、その子(孫)が相続人となる「代襲相続」が発生します。このとき、孫が2人以上いる場合、基礎控除の対象となる代襲相続人が増えることになります。
また、養子縁組も人数に影響を与える制度のひとつです。税法上は、原則実子がいる場合は養子1人まで、実子がいない場合は2人までが基礎控除の対象に含められます。節税目的の形式的な養子縁組は否認される可能性があるため、生活実態や扶養関係が認められることが重要です。
さらに、相続放棄をした場合でも、その人は法定相続人としての地位を一度は取得しているため、相続税の基礎控除額の計算には含めて数えます。
相続税計算の全体的な流れ

ここでは、相続税計算の全体像をイメージするために、家族構成や財産内容を仮定した事例をもとに順番に計算を進めていきます。
事例の条件
- 被相続人:夫
- 相続人:配偶者(妻)・子2人(長男・長女)=法定相続人3人
- 財産:
- 不動産:4,000万円
- 預貯金:1,500万円
- 債務:500万円(住宅ローン残債)
- 特記事項:遺言書なし、遺産分割は法定相続分どおり
この条件をもとに、相続税が発生するかどうか、どのように納税額が決まるのかを見ていきましょう。
遺産総額(課税価格)の算出
相続税の計算は、まず被相続人の財産と債務をすべて洗い出し、課税価格(遺産総額)を算出するところから始まります。
今回の事例における財産と債務は以下のように整理できます。
- 不動産(自宅):4,000万円
- 預貯金:1,500万円
- 債務:500万円(住宅ローン)
そのため、課税対象となる財産は、不動産4,000万円と預貯金1,500万円を合計した5,500万円です。さらに、ここから債務500万円を差し引き、課税価格は5,000万円となります。
課税遺産総額の確定
次に、5,000万円の課税価格から基礎控除額を差し引き、課税遺産総額を確定します。今回の基礎控除額は以下のとおりです。
3,000万円+600万円×法定相続人の数(3人)=4,800万円
ここで求めた基礎控除額4,800万円を課税価格の5,000万円から差し引くと、課税対象となる課税遺産総額は200万円となります。なお、控除額の算出には基礎控除以外にも配偶者控除や小規模宅地等の特例なども適用できるケースもあり、実際はさらに少なくなる可能性があります。
相続税の総額を算出し、各相続人で按分
課税遺産総額が算出できたら、次に相続人ごとの法定相続分に応じて、相続税の総額を算出していきます。
法定相続分は次のとおりです:
- 妻:2分の1(100万円)
- 子2人:各4分の1(50万円ずつ)
これを基に税率を適用します(税率表より:1,000万円以下は税率10%、控除額0円)
- 妻:100万円 × 10% = 10万円
- 長男:50万円 × 10% = 5万円
- 長女:50万円 × 10% = 5万円
→ 相続税の総額は20万円
この段階ではまだ控除前の「相続税総額」です。ここから次のステップで個別控除を適用していきます。
各相続人で控除を適用して納税額を確定
相続税総額が20万円と算出された後は、相続人ごとに適用できる控除を差し引いて、最終的な納税額を決めます。
まず、妻には「配偶者の税額軽減」が適用され、相続税が全額非課税となります(法定相続分以内または1億6,000万円以下の場合は全額控除されるため)。よって、妻の税額10万円はゼロになります。
子ども2人には、年齢や障害の有無によって「未成年者控除」「障害者控除」などが適用できる場合がありますが、今回は該当なしと仮定します。このため、長男・長女はそれぞれ5万円を納付することになります。
よって、今回の事例では最終的に、妻は納税の義務が発生しませんが、2人の子は5万円ずつの納税が必要という結果になります。
基礎控除以外で相続税を軽減できる主な制度

相続税には、基礎控除のほかにも納税額を軽減できる制度がいくつかあります。ここでは代表的なものを簡単に紹介します。
- 配偶者控除
配偶者が相続する財産について、最大1億6,000万円または配偶者の法定相続分までの金額が非課税になる - 小規模宅地等の特例
被相続人が住んでいた自宅や、事業に使っていた土地について、一定の条件を満たした場合に評価額を最大80%まで減額できる - 未成年者控除・障害者控除
未成年者や障害者が相続人の場合、その年齢や障害の程度に応じて相続税額から一定額を控除できる - 相次相続控除
10年以内に連続して相続が発生した場合、前回の相続で納めた税額の一部を今回の相続税額から差し引くことができる
これらの控除制度は適用条件が細かく、誤った理解で申告すると否認される恐れもあります。制度を活用したい場合は、あらかじめ税理士のような専門家に相談しておきましょう
基礎控除で見落としやすいポイント

基礎控除の計算方法はシンプルに見えますが、思い込みや見落としによって誤算が生じやすいポイントでもあります。そこでここでは、特に気を付けるべき4つのパターンを紹介します。
不動産の評価で「基礎控除内」と思い込む
相続財産のうち、最も見誤られやすいのが不動産の評価額です。特に都市部に土地を持っているケースでは建物が古くても土地の評価が想定以上に高くなることがあります。預貯金が少ないから、家が古いからといって、相続税は関係ないと決めつけるのは危険です。
相続放棄した人を人数に入れ忘れる
法定相続人の数を間違える典型例が、相続放棄をした人を除外してしまうケースです。放棄した人は実際に財産を受け取りませんが、基礎控除の計算上は1人としてカウントする必要があります。
特に相続放棄の手続きが非公開で進むこともあり、周囲が正確な情報を把握していないまま進めると、控除額の過小計上につながります。
相続人の確定ミス(認知・前婚歴・代襲相続)
意外な事例として、戸籍を確認したところ、子どもの人数が想定よりも多くなるという可能性があります。これは、配偶者に認知した子がいたり、前婚の子どもが存在したりといった場合に発生します。
かなり珍しいケースではありますが、絶対にありえないことではないので、相続が発生する際には必ず戸籍で子の人数を確認するようにしましょう。
控除だけで判断し、申告が不要だと誤解する
基礎控除以外の配偶者控除や小規模宅地等の特例を使えば、相続税が実質ゼロになることはよくありますが、じつは、それらの制度を使うためには申告が必要です。
「税金がかからない=申告もいらない」と思い込んで何も手続きをしないと、控除を受けられず、後から課税対象になる可能性もあります。必要な手続きは事前に確認しておきましょう。
まとめ
相続税の基礎控除は「3,000万円+相続人の人数×600万円」で求められ、相続人が1人違うだけで控除額が600万円も変わるため、恩恵を受けられる額は家庭ごとに大きく異なります。このことから、相続人が少ない家庭の場合は、基礎控除を超える可能性が高くなります。
また、代襲相続や養子縁組、相続放棄などが関係すると相続人のカウントが難しくなり、気づかないうちに申告漏れにつながることもあります。申告が漏れるとペナルティを受ける恐れもあるので「うちは大丈夫」と思い込まず、相続が発生したときは必ずその全容をチェックしましょう。
この記事の監修者
白崎 達也 アキサポ 空き家プランナー
一級建築士
中古住宅や使われなくなった建物の再活用に、20年以上携わってきました。
空き家には、建物や不動産の問題だけでなく、心の整理が難しいことも多くあります。あなたが前向きな一歩を踏み出せるよう、心を込めてサポートいたします。