公開日:2025.10.23 更新日:2025.10.27
NEW準防火地域とは?制度の基礎から建築ルール・メリットまで徹底解説
家を建てたり不動産を購入したりする際に「準防火地域」の指定があった場合、火災に関する規制がかかるエリアだと想像はできても、その正確な意味や、家を建てる・買う際にどのような影響があるのかを知っている人は少ないでしょう。
実際、準防火地域を確認するのは家の建築や売却をするときくらいなので、実生活にはなかなか関わってきません。内容を知らなくても不思議ではないでしょう。
そこでこの記事では、準防火地域とは何か、防火地域や法22条区域との違い、建築に求められる基準、そして費用や設計への影響までをわかりやすく解説します。この記事を読めば、準防火地域の規制を正しく理解し、安心して不動産取得や建築計画を進められるようになるでしょう。
目次
準防火地域とは?

準防火地域は、都市計画法第8条に基づき指定される、市街地における火災の危険を防除するために定められる地域です。主に、市街地や主要施設の周辺など、建物が密集する場所が対象となり、建物の防火性能を高めるための建築基準法上の制限が課せられます。
建築時に求められる条件は、区域内にある建築物は階数と延べ床面積に応じて以下のように変わります。
準防火地域で求められる制限一覧
| 500㎡以下 | 500㎡超 1,500㎡未満 | 1,500㎡超 | |
| 4階以上 | 耐火構造 | 耐火構造 | 耐火構造 |
| 3階建 | 一定の防火措置 | 準耐火構造 | 耐火構造 |
| 2階建 | 外壁・軒裏の防火構造(木造建築物等に限る) | 準耐火構造 | 耐火構造 |
| 1階建 | 外壁・軒裏の防火構造(木造建築物等に限る) | 準耐火構造 | 耐火構造 |
準防火地域では、延焼の恐れのある部分の開口部には20分の遮炎性能を持つ防火設備が義務付けられています(建築基準法第62条の8)。
耐火構造、準耐火構造、防火構造の具体的な条件は後ほど詳しく解説します。
防火地域との違い
防火地域は、火災リスクが特に高い場所に指定される、準防火地域よりも規制が厳しい区域指定です。規制の内容は以下のとおりで、規制対象となる延べ床面積が大幅に少なくなっていることが分かります。
防火地域で求められる制限一覧
| 50㎡以下 | 50㎡超 100㎡未満 | 100㎡超 | |
| 4階以上 | 耐火構造 | 耐火構造 | 耐火構造 |
| 3階建 | 耐火構造 | 耐火構造 | 耐火構造 |
| 2階建 | 準耐火構造 | 準耐火構造 | 耐火構造 |
| 1階建 | 外壁・軒裏の防火構造(付属建築物に限る) | 準耐火構造 | 耐火構造 |
また、準防火地域同様に、すべての条件で窓に20分の遮炎性能を持つ防火設備を設け、屋根に不燃材料等を用いることが求められます。
法22条区域との違い
法22条区域とは、建築基準法第22条に基づき、準防火地域や防火地域よりも緩やかな規制が適用される区域です。
法22条区域内では、すべての建物に「屋根不燃構造」が求められ、さらに屋根に不燃材料等を使用することと、窓に20分の遮炎性能を持つ防火設備を設けることが求められます。
準防火地域で求められる4つの基準

ここでは、準防火地域で求められる主要な4つの基準、耐火構造・準耐火構造・一定の防火措置・防火構造について、その具体的な内容を解説します。
なお、規制の厳しい順に並べると、耐火構造 > 準耐火構造 > 一定の防火措置 > 防火構造となります。
耐火構造
耐火構造とは、通常の火災が発生した際、建築物が火災の終了まで倒壊や延焼を防ぐために必要な性能を持った構造のことです。建築基準法第2条第7号に定められており、具体的な構造の条件は、建築基準法施行令第107条に定められています。
具体的には、壁・柱・床・はり・屋根・階段の主要構造部が、下記表に記した時間の間、構造耐力上支障のある変形、溶解、破壊、その他の損傷を生じないことが求められます。
耐火建築物における階数と主要構造部による制限
| 対象の部位 | 構造耐力上支障のある変形、溶解、破壊その他の損傷を生じない時間 | ||||
| 最上階及び最上階から数えた階数が2以上で4以内の階 | 最上階から数えた階数が5以上で9以内の階 | 最上階から数えた階数が10以上で14以内の階 | 最上階から数えた階数が15以上で19以内の階 | 最上階から数えた階数が20以上の階 | |
| 間仕切り壁(耐力壁に限る) | 1時間 | 1.5時間 | 2時間 | 2時間 | 2時間 |
| 外壁(耐力壁に限る) | 1時間 | 1.5時間 | 2時間 | 2時間 | 2時間 |
| 柱 | 1時間 | 1.5時間 | 2時間 | 2時間 | 2時間 |
| 床 | 1時間 | 1.5時間 | 2時間 | 2.5時間 | 3時間 |
| はり | 2時間 | 1.5時間 | 2時間 | 2時間 | 2時間 |
| 屋根 | 30分 | 30分 | 30分 | 30分 | 30分 |
| 階段 | 30分 | 30分 | 30分 | 30分 | 30分 |
また、表に該当しない壁と床については1時間、非耐力壁である外壁の延焼のおそれのある部分以外の部分は30分間、それぞれ火熱された場合に、可燃物が燃焼する恐れのある温度に到達しないことが求められます。
さらに、表に該当しない外壁と屋根は1時間、非耐力壁である外壁の延焼のおそれのある部分以外の部分と屋根は30分間、それぞれ火熱された場合に、屋外に火炎を出す原因となる亀裂や損傷を生じないことが求められます。
なお、主要構造部に使用する材料は、その性能を保証するために、国土交通大臣の認定を受けたものを使用する必要があります。
準耐火構造
準耐火建築物とは、建築基準法第2条第7号の2に定められた、通常の火災が起こった場合に、一定時間、建築物の倒壊や延焼を防止できる性能を持った構造の建築物です。具体的な構造の条件は、建築基準法施行令第107条の2に定められています。全体的に耐火建築物より基準が緩やかになっています。
準耐火建築物における階数と主要構造部による制限
| 対象の部位 | 構造耐力上支障のある変形、溶解、破壊その他の損傷を生じない時間 |
| 間仕切り壁(耐力壁に限る) | 45分間 |
| 外壁(耐力壁に限る) | 45分間 |
| 柱 | 45分間 |
| 床 | 45分間 |
| はり | 45分間 |
| 屋根(軒裏を除く) | 30分 |
| 階段 | 30分 |
また、上記の表に記載がない壁、床、軒裏については、45分間、延焼の恐れがある部分以外の非耐力壁である外壁と軒裏については30分間、通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱面以外の面の温度が可燃物燃焼温度以上に上昇しないことが求められます。
さらに、上記の表に記載がない外壁と屋根については45分間、延焼の恐れがある部分以外の非耐力壁である外壁については30分間、屋外に火炎を出す原因となる亀裂や損傷を生じないことが求められます。
なお、使用する材料は、耐火建築物と同じく国土交通大臣の認定を受けたものに限ります。
一定の防火措置
一定の防火措置とは、火災時に倒壊しない寸法の柱やはり、防火構造の外壁や軒裏などを満たすことをいいます。具体的な条件は以下のとおりです。
- 隣地境界線等から1m以内の外壁の開口部に防火設備を設けること
- 外壁の開口部の面積を、隣地境界線等からの距離に応じた数値以下にすること
- 外壁を防火構造とし、屋内側から燃え抜けが生じない構造にすること
- 軒裏を防火構造にすること
- 柱・はりが一定以上の小径、又は防火上有効に被覆されていること
- 床・床の直下の天井は燃え抜けが生じない構造であること
- 屋根・屋根の直下の天井は燃え抜けが生じない構造であること
- 3階の室の部分とそれ以外の部分とを間仕切壁又は戸で区画すること
防火構造
防火構造とは、建築基準法第2条第8号に定められた、外壁と軒裏が一定の防火性能を満たしている構造のことです。具体的な条件は建築基準法施行令第108条に定められており、以下のようになっています。
- 耐力壁である外壁が、通常の火災により火熱を加えられた場合に、30分間構造耐力上支障のある変形、溶解、破壊その他の損傷を生じないこと
- 外壁及び軒裏が、通常の火災により火熱を加えられた場合に、30分間、加熱面以外で屋内に面するものの温度が、可燃物燃焼温度以上に上昇しないこと
不動産が準防火地域と他エリアにまたがる場合の扱い

不動産の土地が複数の規制区域にまたがっている場合は、原則としてより厳しい規制が優先されます。優先される規制をまとめると以下のようになります。
| またがる地域 | 優先される地域 |
| 準防火地域と防火地域 | 防火地域 |
| 準防火地域と法22条区域 | 準防火地域 |
この場合、敷地がまたがっている割合に関係なく、最も厳しい規制が適用されます。
ちなみに、準防火地域と法22条区域にまたがっている場合は、建物内におけるエリアの境目に防火壁を設ければ、延焼の可能性が低いとみなされ、建物の準防火地域と法22条区域を分けて扱うことができます。
準防火地域で不動産を取得・建築する際のポイント
準防火地域は建築物の設計に大きな影響を与えるため、不動産を取得・建築する場合は、本当に妥当な選択なのかを確認する必要があります。ここでは、その際に特に注意したい3つのポイントを紹介します。
希望通りの設計ができるかを調べる
最初に確認すべき点は、準防火地域の制限下においても自分の希望するデザインや間取りが実現するかです。
特に新築するときは要注意ですが、どんなこだわりを持って建築に臨んでも、法令に定められる基準に適合しなければ建築確認が出ず、建築行為に移ることができません。使用材料が指定される部分も多いので、事前に建築士や工務店と相談し、希望するデザインがどこまで実現できるか確認しておきましょう。
また、中古物件を購入する場合も、その物件が準防火地域の建築基準に適合しているかを確認しましょう。中には、建築確認を取得せずに建てられた「違法建築物」も存在します。
コストへの影響を調べる
設計の自由度と合わせてコストへの影響もチェックしておきましょう。耐火構造や準耐火構造で求められる材料は、通常の建築材料よりもコストが高いことが多く、それが積み重なっていくと、全体のコストが大きく上がる可能性があります。
建築メーカーに見積もりを取る際は「準防火地域対応の仕様」で算出してもらい、準防火地域以外で建築した場合との差も出してもらいましょう。
周辺環境の確認
準防火地域は、住宅や商業施設が密集しているエリアに指定されることが多いため、隣地との距離や建築物の配置にも注意が必要です。特に建築物同士が近い場合は延焼リスクも高くなりやすいため気を付けましょう。
また、建築物が密集していると、日当たりや風通し、騒音といった居住環境にも影響が出ます。特に日当たりは季節や時間帯で変わるので、購入前に現地で確認しておくと安心です。準防火地域かどうかを調べるには?
準防火地域の調べ方

準防火地域の指定は、該当する市区町村の公式サイトで下調べをしてから、窓口で確認するのが確実です。中にはウェブ上で確認できるサービスもあったりしますが、建築物全体に関係する大きな規制なので、法令を管理している自治体で信頼できる情報を得るべきです。
具体的には、市区町村の建築担当や都市計画担当で確認できます。また、窓口で「都市計画図」という、準防火地域を含む都市計画法上の制限を図示した図面を販売しているので、資料として購入しておくとよいでしょう。
ただ、都市計画図は縮尺が大きいので、細かな範囲を確認したい場合は、担当職員に直接教えてもらう必要があります。
まとめ・総括
準防火地域は、防火地域に比べると規制は緩やかですが、建築基準法第61条に基づき建物の防火性能が求められる点で、一般地域と比べると厳格な規制です。制限を理解せずに建築を進めると、設計変更や追加費用に直面するリスクがあるため、指定されている場合は必ず条件を把握したうえで、建築や売買を進めましょう。
また、区域が複数の規制にまたがる場合に、より厳しい基準が適用される点には要注意です。ここを間違えると前提が変わってしまい、設計通りの建築物が建てられなくなる恐れがあります。
建築や売買を進める場合は、まず専門家や自治体窓口に相談し、法令を遵守する形でプランを描くところから始めましょう。
この記事の監修者
白崎 達也 アキサポ 空き家プランナー
一級建築士
中古住宅や使われなくなった建物の再活用に、20年以上携わってきました。
空き家には、建物や不動産の問題だけでなく、心の整理が難しいことも多くあります。あなたが前向きな一歩を踏み出せるよう、心を込めてサポートいたします。