公開日:2025.11.10 更新日:2025.10.27
NEW夫婦間でも贈与税はかかるのか?押さえておきたい基礎知識
夫婦間でも、財産の受け渡し方によっては贈与税がかかる場合があります。夫婦間という関係性ゆえに、つい「家族間のやり取りだから大丈夫」と思ってしまう方も多いかもしれません。しかし、税法上は個人同士の取引とみなされるため、金額や内容によっては課税対象となるケースもあります。
この記事では、贈与税の基本的な仕組みや非課税枠、おしどり贈与(配偶者控除)などの特例制度、さらに夫婦間特有の注意点までを解説します。相続や将来の資産形成を見据えた贈与の活用法も紹介しますので、ご自身の家庭に合った管理や対策を考えるきっかけにしてみてください。
目次
夫婦間贈与の基本概要と注意すべきポイント

まずは贈与税の仕組みと、夫婦間での取り扱いの基本を押さえましょう。
贈与税とは、個人から個人へ無償で財産を受け取った際にかかる税金のことです。毎年1月1日から12月31日までの1年間で、110万円までの贈与は「基礎控除」として非課税になりますが、その金額を超えると課税対象となり、申告と納税が必要になります。
一見、夫婦間でのやり取りなら税金はかからないように思われがちですが、税法上は夫婦であっても別の個人として扱われます。
たとえ家族内での金銭のやり取りでも、贈与とみなされれば課税される可能性があることを理解しておきましょう。特に高額な資金移動や不動産の名義変更などは、税務署が不自然な財産移転と判断することもあります。
また、贈与ではなく一時的に借りただけという主張が後から通らないケースも少なくありません。金銭の移動であっても契約書や贈与証書を作成しておくことで、後々のトラブルや追徴課税を防ぐことができます。
夫婦間で贈与税が発生する理由と成立要件
夫婦であっても、財産を無償で渡した場合には贈与とみなされ、条件を満たせば贈与税の課税対象となります。つい、夫婦間なら問題ないだろう…と思いがちですが、税法上は夫婦であってもそれぞれが独立した個人として扱われます。
贈与が成立する背景には、贈与者(あげる人)と受贈者(もらう人)双方の合意、そして財産を無償で与えるという行為と財産の移転という要件があります。
つまり、一方が財産を渡す意思を持ち、もう一方がそれを受け取る意思を示し、実際に財産が移転した時点で贈与は成立するのです。
口頭だけのやり取りでも、実質的にお金や物品が無償で移動していれば贈与と判断されることがあります。少額なら非課税枠内に収まり問題にならないことが多いものの、高額になると税務署の調査対象になるケースもあるため油断は禁物です。
贈与が成立する条件と適用範囲
贈与が成立するためには、双方の合意に基づいて財産が実際に移転していることが前提です。たとえば、口座間での振り込みや不動産の名義変更などが具体例として挙げられますが、これらの行為をもって贈与とみなされることがあります。
夫婦間であっても、こうした行為があれば贈与とみなされるため、後々の誤解を防ぐためにもあらかじめ贈与契約書を取り交わしておくと安心です。
金銭だけでなく、不動産の持分変更や生命保険の名義変更なども、贈与に該当する可能性があります。夫婦間だからと軽く考えると、後から思わぬ税負担につながることも。どのような行為が贈与にあたるのか、正しく理解しておきましょう。
夫婦間でも贈与税がかからないケース

夫婦間での金銭や財産のやり取りは、日常的に起こるごく自然なことです。しかし、税法上はその内容によって「贈与」と判断される場合があります。
とはいえ、すべての資金移動に贈与税が発生するわけではありません。条件を満たせば非課税となるケースも多く、仕組みを理解しておくことで安心して資産管理を行うことができます。代表的な「夫婦間で贈与税がかからないケース」について解説します。
年間110万円以下の非課税枠
贈与税には「年間110万円まで非課税」となる基礎控除が設けられています。1月1日から12月31日までの1年間に受け取った贈与の合計額が110万円以下であれば、申告や納税の必要はありません。ちょっとした資金援助などであれば、この範囲に収まるケースがほとんどでしょう。
ただし、不動産の購入資金や大きな金額のプレゼントなど、一度に多額の資金を渡すと簡単に上限を超えてしまう可能性があります。基礎控除を上手に活用するには、一度に贈与するのではなく、数年に分けて贈与額を分散させるなどの工夫が考えられます。
生活費・教育費を目的とした資金移動
家賃や光熱費、子どもの学費、医療費など、生活に欠かせない範囲での支出であれば課税されません。これは扶養義務に基づく支出と見なされるためです。
一方で、通常の生活水準を大きく超える高額な支出や、生活費・教育費として必要な都度直接充てられていない(例:投資や趣味に使われるような支援金)場合は、贈与と判断される可能性があります。支出の内容や金額の根拠を明確にし、領収書や送金記録をきちんと残しておくと安心感につながるでしょう。
おしどり贈与(配偶者控除)の基本
おしどり贈与とは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用の不動産やその取得資金を贈与した場合に適用される特例制度のことです。正式には「贈与税の配偶者控除」と呼ばれ、基礎控除110万円とは別に2,000万円までの贈与について贈与税が非課税になります。この制度を活用することで、将来の相続税対策にもつなげることが可能です。
長年連れ添った夫婦にとって、住まいの名義を移すタイミングなどで利用されるケースが多く、信頼関係のうえで円滑に資産を移転できるのもメリットです。
ただし、適用を受けるには住民票上の居住確認や不動産取得の手続きなど、いくつかの条件を満たす必要があります。適用条件に合うかどうかを事前に確認しておきましょう。
配偶者控除の適用要件と注意点
配偶者控除を適用するためには、婚姻期間が20年以上であること、贈与財産が居住用不動産またはその取得資金であることなど、複数の条件を満たす必要があります。さらに、贈与を受けた年の翌年の3月15日までに実際に居住し、その後も引き続き居住する見込みであることが前提となります。
手続きを行う際は、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までに贈与税の確定申告を行い、必要書類を提出しなければなりません。期限を過ぎると特例の適用を受けられなくなるため、スケジュール管理も重要です。
この特例は、同一夫婦間で一生に一度しか利用できない制度です。贈与のタイミングや物件の選定は慎重に検討しましょう。
夫婦間で贈与税がかかる主なケース

夫婦間でのお金や財産のやり取りは、信頼関係のうえで行われるごく自然なことです。しかし、金額や内容によっては「贈与」とみなされ、課税対象となる場合があります。
特に高額な資産移転や不動産の名義変更などは、思わぬ課税リスクにつながることも。ここでは、夫婦間で贈与税が発生しやすい代表的なケースを解説します。
高額なプレゼントや旅行費用を贈った場合
誕生日や結婚記念日に夫婦間でプレゼントを贈り合うのは一般的な行為ですが、その金額が高額になると贈与税の対象になる場合があります。
特に宝石や車など、資産価値の高いものは要注意。年間110万円を超える贈与を行った場合、贈与税の申告義務が発生します。
また、高額な旅行費用も例外ではありません。たとえ夫婦で一緒に行く場合でも、費用の負担割合が不明確だと「一方がもう一方に贈与した」と判断される可能性があります。
夫婦間だからとあいまいにしがちな金銭のやり取りですが、金額が大きくなる場合は支出の記録を残すなど、意識的な管理を心がけましょう。
不動産の持分超過や負担額(出資額)の不一致
共働き夫婦でマイホームを購入する際、不動産の名義や持分割合をどう設定するかは重要なポイントです。原則として、実際の出資割合に応じた名義持分にしなければなりません。
もし夫が多くの費用を負担しているのに、妻の持分を高く設定してしまうと、その差額部分が「贈与」と見なされるおそれがあります。
住宅ローンを組む場合も注意が必要です。夫婦の一方が返済したローン残高に相当する支払額と名義のバランスが実態と合っていなければ、その返済相当額が贈与と判断されることがあります。購入前に収入や負担割合を明確にし、領収書や契約書などをきちんと保管しておくことが、トラブル防止につながります。
生命保険料の負担と保険金の受け取り
生命保険も夫婦間贈与の対象となるケースがあります。たとえば、契約者(保険料負担者)と被保険者が夫、受取人が妻の場合、保険金が支払われた時点で妻に「無償で財産が移転した」と見なされ、贈与税の対象になります。
とくに高額な保険金を受け取るケースでは、課税リスクが高まります。契約時には「誰が保険料を支払っているのか」「受取人は誰なのか」を明確にしておくことが重要です。必要に応じて、契約の見直しや専門家へ相談するのも良いでしょう。
高額な口座間移動や借金の肩代わり
夫婦間の銀行口座で大きな金額の移動があると、税務署が「贈与ではないか」と注目することがあります。たとえ夫婦であっても、片方の口座に一方的に多額の入金が続くと、無償譲渡と判断される可能性があります。
また、片方の借金をもう一方が肩代わりし、返済が行われていない場合も同様に贈与と見なされることがあります。家計を共有しているからといって油断せず、資金の移動や返済の記録を定期的に確認しておきましょう。
専業主婦のへそくりが高額化した場合
専業主婦が長年の節約でへそくりを貯めているケースでも、原資が夫の収入であり、それが家計の共有財産ではなく妻個人の財産として相当高額に貯蓄されていると判断されると、そのお金は「夫から妻への贈与」と見なされる可能性があります。特に、へそくりの金額が大きくなり、預金残高として明らかになった場合、税務署の調査対象になることもあります。
へそくりを持つこと自体に問題はありませんが、収入や家計簿で説明できない高額な資金があると贈与として扱われかねません。貯金の経緯を整理し、家計の中で自然な範囲で積み立てていく意識を持ちましょう。
無申告がバレる理由とリスク

税務署は口座情報や不動産の登記状況を細かく確認できるため、隠しているつもりでも“見抜かれる”ケースは少なくありません。
万が一、無申告が発覚すると追徴課税や延滞税などのペナルティが課される可能性も。安心して財産管理を行うためには、どのようなケースで発覚しやすいのかを知っておくことが大切です。
税務署による口座の入出金履歴確認
税務署は、必要に応じて金融機関に照会を行い、個人の口座の入出金履歴を確認することがあります。多額の資金移動や不自然な振り込みが見つかると、その背景について「お尋ね」の文書送付や調査されるケースも少なくありません。夫婦間の資金移動であっても、相場を超える金額や繰り返しの入金があれば贈与と判断されるリスクがあります。
仮に申告漏れが発覚すると、本来納めるべき税金に加え、無申告加算税や延滞税が課されることも。こうした事態を防ぐためには、日頃から家計の収支を整理し、資金の流れを明確にしておくことが重要です。どの支出が共同生活の費用で、どれが個人的な支出なのかを整理しておけば、万一調査が入った場合もスムーズに説明できます。
贈与契約書の未作成によるトラブル
夫婦間であっても、金銭や財産の贈与を行う際には贈与契約書を作成しておくことが望ましいです。口頭だけのやり取りでは、後になって「贈与ではなく貸付だった」と主張が食い違うケースもあり、その過程で税務署の調査が入ることもあります。
贈与契約書を作成しておくことで、「いつ・誰が・どのような目的で贈与を行ったのか」が明確になり、トラブルや誤解を防ぎやすくなります。とくに金額が大きい場合は、書面の有無が重要な判断材料となります。
自分たちで作成するのが不安なときは、税理士や司法書士などの専門家に相談するのも方法のひとつです。夫婦間だからこそ、信頼関係を守るための“形式的な備え”を怠らない姿勢が大切です。
相続税対策としての夫婦間贈与の活用方法

贈与税と相続税は密接に関わっており、将来的な相続税対策として夫婦間での贈与を計画的に行うことは非常に有効です。相続税は、被相続人が亡くなった際に一定額を超える財産に課される税金ですが、生前に贈与を行うことで相続財産を減らし、結果的に相続税の負担を軽減できる可能性があります。夫婦間であれば信頼関係があるため、長期的な資産移転の計画を立てやすい点も大きなメリットです。
おしどり贈与(配偶者控除)をはじめとする特例を活用すれば、節税効果をより高めることもできます。ただし、これらの制度を適用するためには、複数年にわたる準備や正しい申告が欠かせません。制度の適用条件や必要書類は複雑なため、税理士などの専門家に相談しながら進めるのが安心です。
特に不動産や株式など、相続時に評価額が上がりやすい資産は、早めに贈与しておくことでリスクを抑えられます。思い立ったときに少しずつ進める「生前の贈与」は、将来の負担を減らすだけでなく、大切な人に財産を託す安心にもつながります。長期的な視点で、計画的に取り組むことが何よりも重要です。
夫婦間の贈与税の仕組みを正しく理解しよう
夫婦間であっても、財産の受け渡し方によっては贈与税が発生します。身近な関係だからこそ、つい軽く考えてしまいがちですが、税法上は個人間の贈与として扱われるケースも多く、正しい知識と手続きが欠かせません。年間110万円の非課税枠やおしどり贈与(配偶者控除)など、制度を上手に活用すれば節税につなげることも可能です。
一方で、無申告が発覚した場合には、夫婦間であっても追徴課税の対象になることがあります。贈与契約書の作成や資金移動の記録など、日頃からの備えが大切です。将来的な相続税対策の一環として、今のうちから夫婦で話し合い、計画的に資産管理を始めましょう。
夫婦間の贈与や相続のお悩みも「アキサポ」にご相談
贈与税や相続税の手続き、家族間の資産管理は複雑になりやすいものです。専門的な知識を持つプロに相談すれば、無理のない節税やスムーズな資産承継を実現できます。
空き家や不動産の活用も含めた相続・贈与対策を検討中の方は、ぜひ「アキサポ」にお問い合わせください。
この記事の監修者
白崎 達也 アキサポ 空き家プランナー
一級建築士
中古住宅や使われなくなった建物の再活用に、20年以上携わってきました。
空き家には、建物や不動産の問題だけでなく、心の整理が難しいことも多くあります。あなたが前向きな一歩を踏み出せるよう、心を込めてサポートいたします。