公開日:2025.12.22 更新日:2025.12.17
NEW不動産所得の損益通算を徹底解説|メリットから注意点まで完全網羅
不動産所得の損益通算について調べ始めると「どの所得と相殺できるのか?」「税制上のメリットは何か?」「適用できないケースもあるのか?」など、初めての方ほど細かな疑問が次々と湧いてくるものです。特に不動産投資の初年度は修繕費や減価償却が重なりやすく、仕組みを理解しないまま申告すると損をしてしまうのではと不安になる方も多いでしょう。
損益通算は効果が大きく、赤字が出やすい始めたての時期ほど恩恵を受けやすい制度です。だからこそ、最初の段階で正しく理解しておくことが、後々の税負担を減らすうえでも大きな差につながります。
この記事では、不動産所得の損益通算がどの所得と相殺できるのか、使えないケースは何か、青色申告との関係、そして誤解しやすいポイントまで分かりやすく整理しました。赤字が出たときにどう動くべきかを理解するために、基礎知識を学んでおきましょう。
目次
不動産所得と損益通算の基礎知識:定義と適用要件

不動産所得とは、家賃収入や更新料といった総収入から必要経費を差し引いた金額を指しますが、この所得が赤字になった場合に、この赤字分を不動産所得以外の黒字所得と相殺できる仕組みのことを「損益通算」といいます。
ここで気を付けたいのが、赤字を意図的に操作するような行為は認められておらず、あくまで適切な経費計上や実際の支出の結果として赤字になった場合にのみ、損益通算の適用が可能になるということです。修繕費や減価償却費などを正しく整理したうえで確定申告を行い、計算過程に誤りがなく、その計算過程、間違いなく赤字であると確認できた場合に、初めて損益通算が適用されます。
つまり、損益通算は節税のための裏技ではなく、不動産経営の収支を正確に反映したうえで、負担を適正化するための仕組みだということです。
損益通算を行う税制上のメリットと活用目的
損益通算の大きなメリットは、不動産所得の赤字をほかの所得と相殺することで、納める税金を減らせる点にあります。給与所得や事業所得と合算して課税所得そのものを小さくできるため、手元に残る資金を増やしやすくなります。
たとえば、不動産購入初年度の大規模な修繕費や、減価償却費の計上によって支出が膨らみ、結果として赤字が生じるケースは珍しくありません。そのような年に損益通算を活用すれば、余分な税負担を避けられ、キャッシュフローの悪化も抑えられます。特に、給与所得が安定している会社員投資家は効果を実感しやすいでしょう。
また、税負担が軽くなることで、浮いた資金を次の修繕計画や追加投資に回しやすくなる点も見逃せません。不動産投資は長期視点での改善や再投資が欠かせませんが、損益通算を理解しておくと資金繰りにゆとりが生まれ、経営判断もしやすくなります。
ただし、本来の目的は節税ではなく「健全な不動産経営」にあります。赤字が続く状態を良しとするのではなく「必要な支出を適切に計上し、結果として税負担を最適化する」という姿勢で活用することが重要です。
損益通算で相殺できる所得とは?
損益通算は、すべての所得を相殺できるわけではありません。相殺できる相手(=黒字側)は、税金を同じグループで計算する「総合課税」の所得に限られます。
総合課税に含まれる主な所得は次のとおりです。
- 給与所得(会社員の給料)
- 事業所得(個人事業の利益)
- 不動産所得(ほかの物件の黒字)
- 雑所得(一定の条件を満たすもの)
- 山林所得
- 一時所得
これらは不動産所得と同じ枠で計算されるため、不動産が赤字になった場合でも、その赤字をこれらの黒字と相殺することができます。
不動産所得で損益通算できないケース

不動産所得が赤字でも、すべてのケースで損益通算が認められるわけではありません。所得税法上、不動産所得の金額の計算上生じた損失のうち、以下の4つの損失は損益通算の対象から除外されています。
- 別荘やセカンドハウスに係る所得の金額の計算上生じた損失
- 土地及び土地の上に存する権利を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額
- 国外中古建物の減価償却
- 特定組合員等の不動産所得の損益通算
それぞれ詳しく見ていきましょう。
別荘やセカンドハウス
そもそも損益通算には「生活に通常必要でない資産に係る所得の金額の計算上生じた損失は、競走馬の譲渡に係るもので一定の場合を除き、他の各種所得の金額と損益通算できない」というルールがあります。
別荘や趣味目的のセカンドハウスは、この項目に該当するため、たとえ赤字が出た場合でも損益通算の対象にはできません。
土地取得のローン利息
土地の購入にかかったローン利息は、原則として損益通算の対象になりません。
ここは特に誤解されやすいのですが「土地の利息は経費にできない」という意味ではありません。経費として計上すること自体は可能です。
ただし、赤字が出た場合にはその赤字のうち「土地の利息を除いた部分」だけが損益通算に使えるというルールがあります。つまり、土地の利息が赤字部分に含まれていても、その分はほかの所得と相殺できないという仕組みです。
国外中古建物の減価償却
国外に中古建物を所有している場合に気を付けたいのが、日本の制度とは別に「国外中古建物の減価償却だけ損益通算が制限される特例」があるという点です。これは、国外中古建物の減価償却費として計上した金額のうち、簡便法により計算した償却費に相当する部分の赤字については、損益通算の対象から除外するという仕組みです。
つまり、国外中古建物の減価償却によって赤字が生じても、その赤字は税務上なかったものとされるため、通算に使えないということになります。
この特例により、国外中古建物の減価償却が原因で生じた赤字は、国内不動産との内部通算はもちろん、給与所得など他の所得との損益通算にも使えません。たとえ建物の取得費を正しく計上していても、簡便法による償却部分が赤字を生んでいる場合、その分は相殺できないという仕組みになっています。
特定組合員等の不動産所得の損益通算
不動産投資には、自分で物件を買う方法だけでなく、複数の人でお金を出し合って運用する「共同投資型」という仕組みがあります。投資ファンドや民法組合を通じて不動産事業に参加するタイプがそれにあたります。
こうした共同投資では、事業の判断や契約交渉を自分で行わない立場の人(=特定組合員)も多くいます。この特定組合員が受け取る不動産所得には、通常の不動産投資とは違うルールが適用される点に注意が必要です。
共同投資の事業で赤字が出ても、その赤字は「生じなかったもの」とみなされ、ほかの所得との損益通算はできません(特定組合員に該当する場合)。仕組みが複雑な投資ほど節税目的の赤字が発生しやすいため、それを防ぐためのルールとして運用されています。
不動産の売却損は損益通算できる?

不動産の譲渡所得は、売却価格から購入時の費用や仲介手数料、登記費用などを差し引いて計算しますが、この計算で損失(売却損)が出ても、原則として給与所得や事業所得とは損益通算できません。
これは、不動産の譲渡所得(売却益・売却損)が原則として「分離課税」として他の所得と区分して税金を計算する仕組みのため、損益通算できないからです。
ただし、例外的に売却損をほかの所得と相殺できる特例もあります。代表的なのが、自宅(マイホーム)を売却したときに使える制度で、住宅ローン残高との関係など一定の条件を満たすと、売却損を所得から控除できるケースがあります。
損益通算を行う際の注意点とよくある質問
損益通算は仕組みを正しく理解していないと正しく活用できず「思ったより節税できなかった」「申告後に修正が必要になった」という結果に終わってしまうケースもあります。特に、繰越控除や申告方法による違いは誤解されやすいため、制度そのものを整理しておくことが大切です。
そこでここでは、損益通算を検討する際に知っておきたいポイントと、よく寄せられる質問をまとめて紹介します。
損益通算と繰越控除の違い
損益通算と繰越控除はどちらも赤字を活かす制度ですが、使えるタイミングがまったく異なります。
まず損益通算は「その年の赤字を、その年の給与や事業所得と相殺する制度」です。 当年の課税所得を減らすため、効果はその年に即座に出ます。
一方、繰越控除は「当年に使いきれなかった赤字を翌年以降に繰り越す制度」で、最大3年間利用できます。青色申告が条件で、翌年以降の不動産所得や事業所得の黒字と順番に相殺していきます。
当年分の課税所得を減らす仕組みが損益通算、当年に使いきれなかった赤字を将来の所得に充てる仕組みが繰越控除といったイメージです。
たとえば、大規模修繕で大きな赤字が出て、当年の黒字所得では全部相殺できない場合、残った赤字は繰越控除として翌年以降に使えます。今年使うべき赤字なのか、来年に回すべきなのかは、収支の見通しによって判断が変わります。赤字が出た年こそ、損益通算と繰越控除をセットで理解しておくことが重要です。
青色申告と白色申告は損益通算にどう影響する?
青色申告と白色申告の違いは、損益通算の活用においては大きな差があります。
まず、青色申告は節税メリットが非常に多く、損益通算や赤字の活用に強い方式です。帳簿づけは必要になりますが、以下の制度が使えるようになります。
- 損失の繰越控除(最大3年間)
- 青色申告特別控除(最大65万円)
- 家族へ支払う給与を経費にできる(一定要件あり)
特に繰越控除は、赤字が一度で使いきれなかったときに重要で、翌年以降の黒字と相殺できるかどうかが青色申告か白色申告かで大きく変わります。
一方、白色申告は帳簿づけが簡単な代わりに、損失繰越が使えません。
そのため、せっかく不動産が赤字になっても翌年以降に回せず、短期的な損益通算にしか使えない制約が出てきます。
不動産投資を続けていくなら、赤字の活用幅が広い青色申告のほうが有利です。特に物件数が増えたり、大規模な修繕が必要になったりするタイミングでは、申告方式の違いが税負担に直結します。
株やFXの利益と不動産の赤字は相殺できるの?
結論からいうと、株式・FX・投資信託・仮想通貨などの利益と、不動産所得の赤字は相殺できません。理由はシンプルで、これらの所得は 「分離課税」という別枠で税金を計算する」 仕組みになっているためです。
不動産所得は「総合課税」に含まれ、給与や事業所得と同じグループで計算されますが、金融商品の利益はまったく別のグループで計算されます。そのため、不動産の赤字を株やFXの黒字にぶつけることは、税法上できないルールになっているというわけです。
まとめ・総括
不動産所得の損益通算は、仕組みを正しく理解しておくことで税負担を大きく減らせる強力な制度です。ただし、土地の利息や国外中古物件など、相殺できないケースも存在するため、思い込みで申告すると本来の効果を得られないことがあります。だからこそ、日ごろから収支や領収書の整理を進め、赤字になった年にすぐ対応できる状態を整えておくことが大切です。
制度を知っているかどうかで、将来のキャッシュフローは大きく変わります。気になる点があれば早めに税理士や専門家に相談し、損益通算を “狙って使える強み” として活かせるよう準備しておきましょう。
この記事の監修者
白崎 達也 アキサポ 空き家プランナー
一級建築士
中古住宅や使われなくなった建物の再活用に、20年以上携わってきました。
空き家には、建物や不動産の問題だけでなく、心の整理が難しいことも多くあります。あなたが前向きな一歩を踏み出せるよう、心を込めてサポートいたします。