公開日:2025.12.29 更新日:2025.12.17
NEW賃貸収入の確定申告完全ガイド~基礎知識から経費、手続きまで徹底解説~
賃貸収入の確定申告は「何を経費にしていいのか分からない」「青色申告と白色申告の違いが曖昧」「書類が多くて何から始めるべきか迷う」など、初めての人ほどつまずきやすいポイントが多いものです。知らないまま申告すると、後から税金を追加で払うことにならないかと不安になる方もいるでしょう。
こうした悩みは、賃貸経営を始めた多くの人が通る道です。賃貸経営者が確定申告でつまずきやすいポイントを解決するには、まず「どこで迷いやすいのか」を整理し、順番に理解していくことが大切です。ポイントを押さえてしまえば、手続きそのものは決して難しいものではありません。
この記事では、確定申告が必要なケース、経費として認められる支出の判断基準、青色申告と白色申告の選び方、そして手続きの流れまでを分かりやすく解説します。
目次
賃貸収入で確定申告が必要となるケースは?

まずは賃貸収入を得ている人が確定申告をすべき場合を整理しましょう。賃貸収入がある場合は「不動産所得」が発生した時点で原則として確定申告が必要になります。この「不動産所得」とは、得た家賃収入そのものではなく、以下の式で求めた額が該当します。
不動産所得 = 総収入(家賃など) − 必要経費
この所得がプラスになる場合は申告が必要になります。ただし、給与所得者が副収入として得ている場合には例外として「不動産所得を含めた給与所得および退職所得以外の所得の合計額が年間20万円以下なら申告不要」という特例が設けられています。
また、所得が20万円以下で申告不要となるケースでも、医療費控除や新築後初年度の住宅ローン控除、ワンストップ特例を使わないふるさと納税の申告などによって、所得税の還付を受けたい場合は申告が必要になります。
青色申告と白色申告の違いとメリット

次に、確定申告の方法として用意されている 「青色申告」と「白色申告」 の違いを見ていきましょう。青色申告は、複式簿記での記帳などの手間がかかる代わりに節税効果が大きい申告方法です。一方、白色申告は記帳要件が緩く手続きが簡単な反面、優遇措置が少ないシンプルな申告方法です。
どちらを選ぶべきかは、賃貸収入の規模や今後の経営方針、帳簿管理に割ける時間などと照らし合わせて判断する必要があります。ここでは、それぞれの特徴を整理しながら、自分に合った申告方法を選ぶためのポイントを確認していきましょう。
青色申告
青色申告は、帳簿を正しく付けることを条件に、税制上のさまざまな優遇を受けられる申告方法です。複式簿記での記帳や事前の届出が必要になるため手続きはやや複雑ですが、その分だけ節税につながる仕組みが数多く用意されています。
代表的な制度に、最大65万円の所得控除を受けられる「青色申告特別控除」があります。この制度は、所得控除の額が大きいことに加え、赤字が出た年の損失を3年間繰り越すこともできます。この「純損失の繰り越し控除」は、収支に波がある賃貸経営と非常に相性が良いといえるでしょう。
また、家族に支払う給与を経費にできる専従者給与や、30万円未満の設備を一括で経費にできる特例など、柔軟に使える制度も多く、長い目で見ると税負担の軽減効果は大きくなります。
ただし、帳簿付けに一定の手間がかかり、申告の準備に慣れるまで多少の学習コストが必要な点には注意が必要です。とはいえ、近年は会計ソフトが充実しているため、実務上のハードルはかなり下がっています。
白色申告
白色申告は、青色申告よりもかなりシンプルに確定申告を済ませられる方法です。事前申請が不要で、複式簿記も求められず、初めて不動産所得を申告する人でも取り組みやすいというメリットがあります。少額の家賃収入だけであれば、まず白色申告から始めるという選択肢も現実的です。
一方で、白色申告には青色申告ほどの優遇がありません。特別控除もなければ赤字の繰越もできず、経費を計上する際の自由度も相対的に低くなります。そのため、収入が増えていくと税負担が重くなりやすく、複数年にわたり賃貸経営を続ける予定がある人にとっては不利になる局面が出てきます。
なお、記帳義務自体は白色申告でも存在するため「簡単だから管理をしなくていい」というわけではありません。収支が複雑化してきた段階では、優遇措置を考えると、むしろ青色申告のほうが効率的に税務メリットを得られる場合もあります。
賃貸収入の確定申告で経費にできるもの

「経費」とは「賃貸収入を得るために必要だった支出」のことです。
不動産所得の計算では、収入から経費を差し引くことで、課税対象になる所得を圧縮できます。経費を正しく計上できているかどうかで不動産所得が大きく変わるため、まずは代表的な項目を把握しておくことが大切です。
経費として認められるか否かは費用の性質と実際の使用目的の両方を勘案して判断されます。以下に、賃貸経営で経費として認められやすい代表的な費用をまとめました。
- 固定資産税・都市計画税
- 火災保険料・地震保険料
- 管理会社への管理委託料
- 修繕費(原状回復や維持管理のための工事)
- 共用部の清掃費・水道光熱費(貸主負担の場合)
- ローン返済の利息部分
- 入居募集の広告料・仲介手数料
- 消耗品費・事務用品費
なお、経費として計上するには、その支出の内容と、発生したことの証明が必要です。そのためにも、毎月のクレジットカードの明細や領収書をこまめに整理しておくと、経費の漏れを防ぎやすくなります。
減価償却費の計算方法と賃貸収入での扱い
減価償却費とは、建物の価値が時間とともに減少していく分を、毎年の経費として計上する費用です。建物は使用と経年によって価値が少しずつ目減りしていくため、その分を費用として処理することで、実際の収支に近いかたちで不動産所得を算定できます。
貸し出している不動産も同じく、使用年数に応じて価値が減少していくため、法定耐用年数に基づいて一定期間にわたり減価償却を行うのが原則です。耐用年数は建物の構造(木造・軽量鉄骨・鉄筋コンクリートなど)によって異なり、中古物件の場合は、法定耐用年数ではなく「簡便法による耐用年数」または「残存耐用年数」を用いるため、償却期間が短くなるケースがあります。
減価償却費は以下のステップで算出します。
減価償却費の計算手順
- 建物の取得価額を把握する(土地部分は除外)
- 法定耐用年数を確認する(住居用:木造22年、RC造47年など)
- 取得価額 ÷ 法定耐用年数 = 1年あたりの償却費
なお、中古物件は「残存耐用年数」のルールに従い、年数を短縮する場合もあります。
家賃収入で経費にできない費用

不動産の経費として認められるのは「家賃収入を得るために必要な支出」に限られます。そのため、日常生活で支払う費用や、物件の取得そのものに関する支出は経費に含められません。誤って計上してしまうと、税務調査で否認される可能性があるため、あらかじめ経費にできないものは把握しておきましょう。
経費として認められない代表的なものは次のとおりです。
経費にできない費用の例
- 自宅分の水道光熱費・通信費などの私的支出
- 物件の購入代金(建物+土地)
- 借入金返済の元本部分
- 自分が支払う所得税・住民税
- 自宅兼事務所の家賃(按分しない全額計上は不可)
- 建物の価値を高めたり、耐久性を増したりする大規模リフォーム(※資本的支出として扱い、減価償却によって費用化する)
これらの費用は不動産の経営に直接関係がなく、自分の生活費や税金、資産形成を目的としているため、不動産所得を計算するうえでの必要経費には該当しません。
借入元本分や所得税・住民税が経費にできない理由
借入金の元本部分は「負債の返済」であり、資産を形成するための支出ではないため、経費にはできません。費用として扱えるのはあくまで「利息」や「融資手数料」など、家賃収入を得るために必要だった部分のみです。
また、所得税や住民税は自分自身の税負担であり、事業のための支出ではないため経費には含められません。
これらを誤って経費に含めてしまうと、申告書の整合性が崩れ、税務署から修正を求められる原因になります。借入返済や自身の税金は経費にならないと理解しておきましょう。
経費の扱いを間違いやすいケース
経費に含まれると勘違いしやすい項目も見ていきましょう。以下によくあるケースをまとめました。
- 賃貸物件を自宅と兼用している場合に、維持管理費全額を経費にしてしまう
→ 自宅部分の使用は事業と無関係のため、実際に賃貸運営に使っている面積や利用時間に応じて按分する必要がある - 共用部の水道代・電気代をまとめて自宅用と合算してしまう
→ 貸主負担部分を切り離して管理する必要がある - リフォーム費用はすべて修繕費として計上できると思ってしまう
→ 資産価値を高める工事は「資本的支出」となり、減価償却扱いになる。 - 管理会社との契約書が曖昧で、負担した費用の範囲が曖昧のまま申告してしまう
→ 契約に基づかない経費計上は否認される可能性が高い
これらは「全体の支出の中に経費になる部分が混在している」ことが原因で起こりやすいトラブルです。こういったミスをなくすためにも、普段から領収書や明細はしっかり分類しておきましょう。
確定申告の手順

個人の確定申告をしたことがある人は多いと思いますが、賃貸収入の確定申告は「事業としての収支を整理して申告する」という点が大きく違います。 家賃入金や修繕費など、生活費とは異なる性質の支出が複数発生するため、仕訳や記帳の段階で戸惑う人が多いのが特徴です。
賃貸収入の確定申告をスムーズに進めるポイントは「収支の整理 → 書類作成 → 期限内提出」という基本の順番を踏むことです。一般的には、以下のステップで進めていきます。
確定申告の基本的な流れ
- 1年間の収入と経費を整理する
家賃入金、管理費支払い、修繕費、保険料などを月ごとにまとめる - 不動産所得を計算する
「総収入 − 必要経費」で所得額を算定する - 申告書類を作成する
確定申告書B・不動産所得の内訳書を作成する - e-Taxまたは税務署で提出する
期限は毎年2月16日〜3月15日が原則
ただし、初めての賃貸収入の申告では経費の分類が分かりにくく、書類作成の段階で手が止まりやすいことがよくあります。たとえ収入と領収書がきちんと揃っていても「どの支出をどの費目に振り分けるか」「減価償却費をどの欄に記入するか」「貸借対照表や収支内訳書のどこに何を書くのか」などが分からず、想定以上に時間がかかるケースが多く見られます。
さらに、e-Taxの入力画面が分かりにくいという声も多く、初めての人ほど入力ステップで混乱しがちです。
そのため、初年度は税理士にスポットで相談したり、地域の無料相談会を活用したり、セミナーや動画解説を参考にしたりと、誰かに流れを教わりながら進めるほうがスムーズです。一度流れを体験すれば翌年以降は格段に楽になるため、最初だけサポートを受けるのは十分に価値があります。
確定申告の必要書類
確定申告で必要になる主な書類は以下のとおりです。
主な必要書類
- 確定申告書
- 不動産所得の収支内訳書
- 家賃収入の記録(通帳の写し、入金明細など)
- 各種経費の領収書・請求書類
- 固定資産税の納税通知書
- 保険料の領収書
- 減価償却の計算に必要な書類(売買契約書、建物・土地の価格配分がわかる資料)
- ローン返済の明細書(利息部分の把握に必要)
など
特に領収書類は後から入手が難しいため、月ごとに整理しておくと大幅に手間が減ります。
より具体的に知りたい場合は、国税庁のウェブサイトを参照しましょう。
帳簿や領収書の管理方法
賃貸経営で発生する費用の領収書や請求書は、いつ税務調査が入っても大丈夫なように、すぐに閲覧できる形で保管しておきましょう。青色申告・白色申告ともに帳簿書類の保存義務があり、原則7年(例外的に5年のものもあり)と定められています。
これらは紙でファイリングしても問題ありませんが、近年は電子データで保存する方法も認められています。 劣化や紛失のリスクを減らせるため、紙とデータを併用して管理するのがおすすめです。
なお、帳簿や領収書を整理する際には、次のポイントを習慣化しておくと、申告時の負担を大きく軽減できます。
- 月別フォルダでまとめておく
- 経費の種類ごとに分類する(修繕費・管理費・保険料など)
- 領収書を撮影してクラウドに保存する
- 年度ごとにバックアップを取る
無申告・申告遅れのペナルティ

確定申告の期間は毎年 2月16日〜3月15日で、遅れると延滞税や無申告加算税が発生する可能性があります。期限後に提出した場合の主なペナルティは以下のとおりです。
主なペナルティ
- 延滞税
支払うべき税金を期限後に納めた場合に加算される。納期限の翌日から2か月以内は年「7.3%」または「特例基準割合+1%」のいずれか低い方、2か月を超える期間は年「14.6%」または「特例基準割合+7.3%」のいずれか低い方が適用される - 無申告加算税
期限内に申告しなかった場合に課される追加税。原則として50万円以下は10%、50万円を超える部分は15%だが、税務署からの指摘前に自主的に申告した場合は5%に軽減される(一部例外あり) - 重加算税
隠蔽や仮装があると判断されたときに適用される、より重い追徴税。過少申告の場合または不納の場合は35%、無申告の場合は40%が課される
これらはケースによって税額が大きく膨らむことがあり、大変危険です。特に初めての申告では書類準備に時間がかかりがちなので、専門家や税務署のサポートを活用して、期限内の提出を徹底しましょう。
まとめ~正しく申告して賃貸経営を安定させよう
賃貸収入の確定申告は、制度を正しく理解し、適切な準備を行えば、決して難しいものではありません。青色申告の控除や経費の扱い方など、早めに整理しておくほど節税効果は高まり、将来的なトラブルも避けられます。
また、帳簿と領収書の管理を習慣化しておくことで、税務調査のリスクを下げながら安定した賃貸経営につなげることができます。毎年の申告を「資産管理の見直しの機会」として活用し、自分に合った形でより無理なく続けていきましょう。
この記事の監修者
白崎 達也 アキサポ 空き家プランナー
一級建築士
中古住宅や使われなくなった建物の再活用に、20年以上携わってきました。
空き家には、建物や不動産の問題だけでなく、心の整理が難しいことも多くあります。あなたが前向きな一歩を踏み出せるよう、心を込めてサポートいたします。