公開日:2025.09.24 更新日:2025.08.13
『曰く付き物件』とは?告知義務や見分け方、住む際の注意点を総まとめ

最近、不動産を探していると「曰く付き物件(訳あり物件)」という言葉を耳にすることが増えてきました。
過去に事件や事故が発生したことにより、心理的な抵抗を覚える可能性のある物件のことを指しますが、中には特殊な事情により相場よりも価格が安く設定されているケースもあります。
こうした物件に住むことには、費用面などのメリットがある一方で、トラブルのリスクや近隣住民との関係といったデメリットも存在します。また、不動産業者や売主側には「告知義務」と呼ばれる一定の説明責任が課されており、契約時のトラブル回避には正しい知識が不可欠です。
本記事では、『曰く付き物件』の法的な定義や位置づけから、告知義務の内容・契約時の注意点・物件選びのポイントまで、わかりやすく網羅的に解説していきます。
目次
そもそも『曰く付き物件』が指すものは?心理的瑕疵との関係

一般的に、『曰く付き物件』と聞くと心理的な抵抗を覚える人も多いですが、実際にはどのような特徴を持つ物件を指すのでしょうか。ここでは、主に「心理的瑕疵」との関係性を含めて、その定義を整理します。
『曰く付き物件』は、過去に人が亡くなっていたり、事件・事故などが発生しているなど、心理的な不安要素を抱える物件を指すことが一般的です。中には、寺社での供養や専門業者による特別清掃が実施されているケースもあり、契約前には背景を把握しておくことが重要です。
また、物件によっては瑕疵の度合いを複数段階に分類し、借り手や買い手が心理的にどの程度まで許容できるかを判断しやすくなる仕組みが導入されている場合もあります。ただし、こうした心理的要因の受け止め方は個人差が大きく、同じ物件でも強く抵抗を感じる人と、まったく気にしない人に分かれることがあります。
さらに現時点では、『曰く付き物件』という言葉自体が法律で明確に定義されているわけではなく、不動産会社や利用者側の判断によって適用範囲が異なる可能性がある点にも注意が必要です。
心理的・物理的・環境的・法的瑕疵の違い

物件に関する「瑕疵(かし)」は、大きく分けて心理的・物理的・環境的・法的の4種類に分類されます。
・心理的瑕疵:物件そのものに直接的な損傷はないが、過去の事件・事故・死亡事例などにより心理的な抵抗を感じやすい要素があるもの。
・物理的瑕疵:建物の構造や設備に明確な不具合や破損があるケース。
・環境的瑕疵:周囲に工場・墓地・騒音源・嫌悪施設などがあるために、生活環境に悪影響が及ぶ可能性がある物件。
・法的瑕疵:建築基準法や都市計画法などの法律に抵触するケースや、再建築不可などの制限がある物件。
一般的に「曰く付き物件」とされるものは、この中でも心理的瑕疵に該当するケースがほとんどです。ただし、これらの瑕疵が複合的に存在する場合もあるため、契約前に内容を冷静に確認することが大切です。
『事故物件』との違いと、不動産会社による説明の義務
『事故物件』と呼ばれるものは、物件内で事件や自殺、火災など、死亡事例を伴う重大な出来事が実際に起きた場合を指すのが一般的です。ただし、自然死や病死など、事件性がない死亡事例の場合は、必ずしも事故物件とは見なされないことがあります。
不動産会社は、こうした情報を宅地建物取引業法に基づく『重要事項説明』の一部として開示する義務(告知義務)がありますが、その範囲や期間は売買契約か賃貸契約かによって異なります。
たとえば、
・賃貸の場合:原則として、事故発生から3年を経過すると告知義務はなくなるとされています(ただし、契約者が亡くなった部屋に直接入居する場合などは除く)。
・売買の場合:事故発生からの期間にかかわらず、原則として買主への告知が必要とされるケースが多いです。
このように、『事故物件』という表現には一定のあいまいさが残されており、不動産会社ごとに判断基準が異なる場合もあります。そのため、物件を検討する際は、事前に不動産会社へ確認を取ることが確実な情報収集につながります。
告知義務の基本|期間や適用範囲はどうなっている?

『曰く付き物件』で最も気になる点のひとつが、「告知義務」に関する問題です。どのような出来事が対象となり、どの範囲・期間にわたって情報を開示する必要があるのか、具体的に見ていきましょう。
告知義務とは、不動産取引において、物件の借主や買主が事前に把握しておくべき重要な事実を、貸主・売主または仲介する宅地建物取引業者(不動産会社)が説明しなければならない法的な義務のことを指します。心理的抵抗を感じるような事案(死亡事故や事件等)があった場合には、「重要事項説明書」に記載されるべき内容となります。
たとえば、物理的・法的な瑕疵であれば、建物の劣化や耐震性の問題、建築基準法違反といった明確な欠陥が対象になりますが、『曰く付き物件』の場合は、心理的要素(過去の事件や死亡事故など)によるものが中心です。契約トラブルを未然に防ぐためにも、当事者はこの告知義務の範囲や対象を正しく理解しておく必要があります。
ただし、瑕疵の種類や内容によっては告知の必要がない場合もあり、特に事件性のない自然死などは「事故物件」として扱われず、説明が省略されることもあるため、実際の事例ごとの確認が重要です。
「3年で告知不要」は本当か?国のガイドラインによる基準
賃貸物件における心理的瑕疵については、「事件や事故発生から3年が経過すれば告知義務は不要になる」という運用が広く行われています。これは、国土交通省が2021年に発表した『宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン』に基づく基準によって、業界に浸透しました。
一方で、売買契約においては、たとえ時間が経過していても告知が必要とされることが多いのが現状です。これは、購入者が長期間住む前提で契約するため、金銭的にも精神的にも影響が大きいと判断されることが背景にあります。
ただし、最終的な判断は物件の種類や出来事の内容に左右されるため、契約前には不動産会社へ具体的な確認を行い、書面での説明を求めることが安心につながります。
自然死や隣室での事故は告知義務があるのか
自然死や病死については、事件性がなければ基本的に「事故物件」として取り扱われないことが多く、告知義務が免除される傾向にあります。ただし、孤独死などで遺体が長期間放置された場合には、室内の損傷や臭気などが生じる可能性があるため、心理的・物理的両面での瑕疵とされ、告知が必要になることもあります。
また、同じ建物内や隣室などで発生した事故・事件に関しては、当該住戸に直接的な影響がなければ、告知義務が生じないと判断されるケースもあります。とはいえ、地域差や不動産会社の基準によって対応が異なる部分があるため、事前にしっかり確認することが望ましいです。
近年では、告知義務が法的に課されていない場合でも、トラブル防止の観点から自主的に情報開示を行う事業者も増えており、信頼できる不動産会社選びも重要なポイントとなります。
もし告知されなかったら?買主・借主が取るべき対応策
契約後に、「実は過去に死亡事故があった」などの事実が判明した場合、まずは不動産会社または貸主・売主に対し、告知内容に不備がなかったかを確認することが必要です。
重要事項説明に虚偽や不記載があった場合には、告知義務違反が成立する可能性があり、賃貸契約であれば契約解除や損害賠償請求が認められるケースもあります。実際に、敷金や礼金の返還・慰謝料の請求が認められた判例も存在します。
ただし、心理的瑕疵に対する受け止め方は人によって異なるため、法的対応を検討する前に、弁護士や宅地建物取引士などの専門家へ相談することが現実的な第一歩です。
曰く付き物件が安くなる理由とそのメリット・デメリット

『曰く付き物件』は、一般的な相場よりも安く設定されていることが多く、その背景には心理的要因や市場原理が複合的に関係しています。一方で、実際に居住を始めると心理的な負担や近隣とのトラブルといったリスクも無視できません。
物件の価格や家賃が下がる主な理由は、入居者側の心理的抵抗感が強く、需要が著しく低下するためです。特に、突然死や事件性のある死亡があった部屋では敬遠される傾向が強く、オーナー側が早期入居を目的として市場価格よりも大幅に価格を引き下げることが一般的です。
安さは確かに大きな魅力ですが、その一方で、入居後に過去の出来事に関する「心霊的な噂」や物件イメージが気になりやすいという点は明確なデメリットとなります。また、近隣住民の視線や態度など、風評被害による人間関係のトラブルが発生する可能性も否定できません。
ただし、事件や事故の内容によっては、建物自体の物理的価値が大きく損なわれていないケースもあり、費用面でのメリットを重視する人が心理的対処や周囲との関係性に配慮しながら入居を選択する例も増えています。
家賃や購入価格が相場より低い背景とは?
『曰く付き』とされる物件は、過去の出来事が広く知られているほど借り手・買い手が見つかりにくくなり、売主や貸主が早期の契約成立を目指して、市場価格よりも低く設定するケースが一般的です。心理的な負担を価格で相殺しようとする意図が反映されています。
近年では、供養やお祓い、さらには特殊清掃やフルリフォームなど、物件に対する不安を軽減する取り組みが積極的に行われるようになってきました。こうした処置により、「完全に相場の半額以下」ではなく、「相場より少し安い程度」で流通するケースも増えています。
価格に影響を与える要因は、事件の内容・報道の広がり・近隣の評判・立地・築年数などが複雑に絡むため、単に安いからといって曰く住みやすさや安全性が保証されるわけではありません。物件情報は必ず冷静に精査しましょう。
住み始めてからの不安やトラブルへの対策
入居後に感じる心理的な負担としては、深夜の物音が気になったり、過去の出来事が思い出されて不安になるといった例が挙げられます。こうしたストレスを軽減するために、明るい色のインテリアを使う・アロマを取り入れる・定期的な換気を行うなど、生活環境の工夫が有効です。
また、風評被害への不安は、本人よりも周囲からの視線や噂によって増幅されるケースが多いです。不動産会社が情報を広めることは基本的にありませんが、管理人や住民の間で過去の出来事が共有されていることもあるため、良好な近所付き合いを心がけることが安心につながります。
もしトラブルが深刻化した場合には、不動産会社・管理組合・弁護士などの専門家に早めに相談することが重要です。一人で抱え込まず、第三者のアドバイスを得ることで精神的負担も軽減され、冷静に問題解決へ向かえます。
曰く付き物件を見極めるポイント

物件探しの際に『曰く付き物件』を避けたいと考える人がいる一方で、家賃の安さや割安感を重視してあえて探す人もいます。自分の目的や価値観に合った物件を選ぶためには、いくつかの見極めポイントを押さえておくことが大切です。
まず前提として、不動産会社やポータルサイトに掲載されている情報だけでは、物件の全ての背景が分からないことがあります。近年は心理的瑕疵の有無を明示するサイトも増えていますが、情報の開示が完全に浸透しているとはいえません。
そのため、実際に住んだ人の体験談や口コミサイトの情報は非常に参考になります。また、相場と比べて極端に家賃や売買価格が安い物件には、何らかの理由があると推察できるため、その背景を慎重に確認する姿勢が重要です。
物件を検討する際は、価格だけでなく、立地・治安・周辺施設・日照・騒音など住環境全体をバランスよく評価し、総合的に判断することが賢明です。
物件情報サイトや不動産口コミの活用法
大手の不動産ポータルサイトには、検索条件に「事故物件」や「訳あり物件」といったカテゴリを設定できる機能が搭載されていることがあります。これを活用すれば、該当物件の抽出や比較がスムーズに行えるでしょう。
ただし、サイトに記載がない場合でも、実際には『曰く付き』であるケースも存在します。気になる物件があれば、不動産会社へ直接問い合わせることで、より具体的な経緯や背景を確認することが可能です。
あわせて、不動産口コミサイトやSNSなどで他の利用者の感想をチェックすることも有効です。特に一定数以上の評価がある場合、実際の居住者による多面的な意見を得やすく、情報の客観性が高まります。
肯定的な声と否定的な意見の両方を読み比べることで、物件の実態をより正確に把握しやすくなるでしょう。
相場より安い家賃・手数料設定に注目
同じエリア・間取りの物件と比較して、明らかに家賃や価格が低い場合には『曰く付き』である可能性を視野に入れる必要があります。特に、急に値下げされた物件や長期間空室が続いている物件は、理由を調べておくべきです。
ただし、築年数の経過や立地の不利、設備の老朽化など、価格が下がる正当な要因がある場合もあります。そのため、「曰く付き」が原因で安くなっているのか、物理的要因によるものなのかをしっかり見極めることが重要です。
さらに、仲介手数料や管理費が相場より著しく安い場合も注意すべきポイントです。特別な事情がある可能性があるため、不透明な点は遠慮せずに不動産会社へ直接確認することをおすすめします。
実際の体験談|事故物件内見・入居で気を付けたいこと

実際に『事故物件』とされる住居を内見し、その後入居を決めた人たちは、どのような経験をしているのでしょうか。現場のリアルな声と、入居前に押さえておくべき注意点をまとめました。
事故物件と理解した上であえて選ぶ理由としては、「家賃の安さ」や「立地の良さ」が挙げられます。特に都市部では、同じ広さ・設備であっても価格差が大きいため、コスト重視の層にとって魅力となることも少なくありません。
しかし、実際に住んでみると心理的なストレスや人間関係の摩擦など、思わぬ形で影響が出ることがあります。たとえば、周囲の住人が過去の事故情報を把握している場合、無言の距離感や孤立感を覚える人もいるようです。
そうした不安を軽減するためにも、契約前の下見や十分な事前リサーチが極めて重要です。
住んでわかった心霊現象や得体の知れないトラブル
実際に事故物件へ入居した人からは、「深夜に原因不明の物音がする」「人の気配を感じる」といった体験談が聞かれます。これらは、心理的な緊張状態による過敏な反応であることもありますが、同時に築年数の古い物件では配管や床のきしみなどによる生活音がストレス要因となることも多いです。
また、親戚や友人が「事故物件に住んでいる」と知ったときの反応が気になるという声も多く、霊的な体験そのものよりも、周囲からの目線やうわさの方が精神的負担になるケースもあります。
実際に霊的現象が発生するかどうかは個人差が大きく、一部では噂が独り歩きし、事実以上に恐怖感が拡大するケースもあります。その結果、落ち着かないまま住み続けるか、再び引っ越すべきか悩むことになったという体験も少なくありません。
だからこそ、入居を決断する前にできる限りの情報収集と心構えが重要になります。
事前の下見と専門家への相談の重要性
契約前の下見では、物件の築年数や共有部の雰囲気、近隣環境などを自分の目で確認することが第一歩です。気になる点があれば、遠慮せず不動産会社や管理会社に質問し、誠実な説明が得られるかを見極めましょう。
また、物件に対して不安が残る場合は、建築士・特殊清掃業者・ホームインスペクターなどの専門家へ相談するのも有効です。専門家であれば、表面的な見た目だけでなく、設備やリフォーム状況、清掃の有無などを客観的に評価してもらうことができます。
事故物件は価格の魅力だけで選ばず、精神的ストレスや住環境を総合的に判断し、「住み続けられるかどうか」の視点で検討することが、後悔のない選択につながります。
まとめ|安心して物件を選ぶために押さえておくポイント
検討の難しい『曰く付き物件』ですが、情報を正しく理解し、事前の調査を丁寧に行うことで、リスクを最小限に抑えることは十分可能です。ここでは、安心して賢く物件を選ぶために押さえておきたい基本ポイントを整理します。
まず何より重要なのは、物件の背景を契約前にしっかりと確認することです。疑問点や不明な点がある場合は、遠慮せず不動産会社に問い合わせ、心理的瑕疵だけでなく、法的・物理的な瑕疵の有無についても説明を求める姿勢が必要です。
次に、価格の安さだけに惹かれず、実際の生活を想定した上で、精神的な負担・近隣との人間関係・長期的な快適さなども含めて総合的に判断する視点を持つことが大切です。口コミサイトや専門家の意見も積極的に活用し、リスクを読み解く力を身につけることが、後悔しない選択につながります。
最終的には、自分自身の価値観や許容できる範囲と、物件が持つリスクとを天秤にかけてバランスを取ることがカギとなります。十分な情報収集を行い、納得したうえで契約に進めば、『曰く付き物件』であっても、安心して暮らせる住まいを手に入れられる可能性は十分にあります。
この記事の監修者
白崎 達也 アキサポ 空き家プランナー
一級建築士
中古住宅や使われなくなった建物の再活用に、20年以上携わってきました。
空き家には、建物や不動産の問題だけでなく、心の整理が難しいことも多くあります。あなたが前向きな一歩を踏み出せるよう、心を込めてサポートいたします。