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2021.07.07

【特別対談/積立王子×ジェクトワン】長期投資と空き家活用-二人が目指す“本来の姿”とは(前編)

セゾン投信 代表取締役会長CEO 中野晴啓氏 

ジェクトワン 代表取締役 大河幹男   

2本の長期資産育成型ファンドを運用し、“積立王子”の愛称で親しまれている、セゾン投信の代表取締役会長CEO・中野晴啓氏。一方で、マルチカテゴリーの不動産事業を展開するかたわら、不動産事業としては珍しい空き家活用事業「アキサポ」に取り組む株式会社ジェクトワンの代表取締役・大河幹男。

一見、異業種でかかわりのなさそうな二人がなぜ出会ったのか―前編では、二人が起業したきっかけに秘められた“共通項”について伺っていきます。

≪写真左:ジェクトワン 代表取締役 大河幹男 写真右:セゾン投信 代表取締役会長CEO 中野晴啓氏≫

出会いのきっかけは、2020年10月のジェクトワン主催のセミナーへの中野会長の登壇

中野氏:ジェクトワンさんの空き家活用については事前に聞いていて、社会的課題に向き合っている会社だなと感じていましたが、全くそのとおりでしたね。

共通点というところでいえば、僕らも創業時から社会的課題の解決に挑むんだと思っていた。空き家の問題というのは、僕らのような不動産の素人でもわかる、今最も重要な課題の一つ。

そこに向けて自分たちのソリューションを提供していくんだ、というまさに社会的事業。そこが僕の一番刺さったところですね。

大河:投資信託のセミナーを聞くということ自体初めてでしたが、とりあえず僕の預金は、8割がた投資信託に回そうと思いました(笑)

中野氏:素晴らしい!(笑)

大河:また、当社は元々空き家事業というハードの部分を担っていると考えていたのですが、一つの金融資産である空き家を当社が預かって、リノベーションして賃料が発生するものにする(※)、当社が預かることによって資産価値が上がるという点については、ちょっとおこがましいですがセゾン投信さんと似ているのかなと感じました。

中野氏:いや、似ているというか全く同じカテゴリーなんですよ。土地を仕入れて、その土地が値上がりするのを待って、他の人に売る、というのでは僕らと違う仕事、いわゆる地上げ屋ですよね。

でも、ただ今現在富を生んでいなくても、それに付加価値をつけて富を生むものに変える、そこにプロフェッショナルを注ぎ込むというのは、これはまさに金融の仕事です。

富を生み出していなかったものがその段階で金融商品に変わっていく、つまり僕らからすると、投資対象たりうるものに変わっていくんですね。だから我々の事業は同じカテゴリーのものと思いますよ。

※アキサポの仕組み
所有者から空き家を借り受け、ジェクトワン負担でリノベーションし、新たな利用者に一定期間賃貸する仕組み。一定期間経過後は、生まれ変わった空き家を自ら使用することも、所有者と利用者との間で賃貸を継続して賃料収入を得ることもできる。

―お互いの印象は?

中野氏:大河さんは、おそらくすごく自信を持っている方なんだなと思いました。自分がやっていることに自信を持っているので、自分を客観的に卑下することができる。だからすごく謙虚に接していただいたんですね。「自分は何をしてきた、こんなにすごいんだ」とアピールする人が多いなか、大河さんは今やっていることへの自信とかプライドとか矜持とかそういったものがきちんとあるがゆえに、そういったものを「えへへ」って表現でできちゃう。非常に大きな方だなと思いました。

大河:それは会長こそ(笑)僕、以前、中野さんのことネットで検索したらいっぱい記事が出てきて、結構読んだんですけど、すごい方だなと。で、実際にセミナーやその後の食事会でお会いしたら、すごく丁重な方でびっくりしました。実は今日も久しぶりにお会いできるとあって、「あ、中野会長だ、うわ、緊張するな」と思っていたんです、だってすっごく偉い方ではないですか(笑)でもやはりそんなことを感じさせなくて、お人柄がすごく出ていますよね。

中野氏:いえいえ。あと、大河さんは夜、「おもろい方」ですよ(笑)

―運用会社と不動産会社。それぞれ起業のきっかけは?

中野氏:僕の場合は現場の運用の仕事がすごく長くて、現場でいわゆる長期投資というものを運用者として実現したいという思いで、どうしたらそれができるようになるかっていう風にロジックを積み上げていったら、ああ、やっぱり自分で会社を作る、投資信託を自分で作る、ということをやらなきゃだめなんだということにたどりついたので、そのために起業しなきゃいけない、そういう順番だったんですね。

とにかく最初は納得のいく長期投資を実現して世の中に提供したいと。ただその時点では自分のための長期投資だったんですけど、さわかみ投信の澤上さん(※さわかみ投信株式会社 取締役会長 澤上篤人氏)にいろんな意味で気づきをもらって、こういったビジネスモデルの会社を作ろうと思ったときには、自分のための長期投資ではなく、世の中の生活者のための長期投資を実現したいという思いに自分の中で変わっていきました。僕にとって起業はあくまでもソリューションだったんですよね。

大河:僕は38歳までデベロッパーにいて、土地を仕入れてマンションを作る、という部署で結構長くやっていた。デベロッパーというのは「土地を買って作る」という繰り返しなので、それがやりやすいような、なるべく簡単なわかりやすい土地を買いたいんです。

一方で、木造家屋密集地域のような、権利関係が複雑な土地、地権者が多い土地は買いたがらないんですよ。でも、阪神淡路大震災が起こったときに、その木造家屋密集地域が壊滅状態になって、亡くなった人の4分の3くらいが建物の倒壊によるものでした。本来、デベロッパーがそういった木造家屋密集地域の開発をしていればそういうことが起こらなかったのに…。当時森ビルが何年もかけて港区の再開発を行ったのを見ていて、ああいったことをもっと色んなところでやるべきなのではないか、そのためにはデベロッパーにいてはできないと思ったんです。

あとは、マンションを作る会社にいたのでマンションしか作らなかった、つまりどこにでもマンションを作ってしまっていました。本来マンションは住居地域などの環境のよいところに作るべきなんですけど、僕らのときは甲州街道沿いや首都高に面してマンション作ったり、駅前で商業やホテル用地でもマンション作ったり。

中野氏:確かに準工業地域でもおかまいなしにマンション建っていますよね。

大河:そうなんです、工業系地域なら倉庫や物流施設の方がいい。それでもマンションを作る、それしか知らないから同じものを作ってしまう。そういったことに違和感を覚えて、デベロッパーとして、その土地に合う建物を作りたいなと思ったんですね。建物目線ではなく、土地から見て、その土地に合うものを作りたかった。

中野氏:それは本来の姿ですよね。

大河:おっしゃるとおり、不動産業の本来の姿なんですけど、一方で単純に買って作って売った方が儲かるんですよ。わかりやすいし簡単で。単にマンションだけ作っていた方がもしかしたら儲かったかもしれないんですけど、そしたらモチベーションは上がらないし、社会にとってもいいことではない。

中野氏:街並みも壊しますものね。

大河:そうですね。こういった会社っていつまでも続かないんだろうなと思って起業した、ということですね。

中野氏:似ていますね。というか基本一緒なんですね。業界の常識とか当たり前と思っていることは本来目線で見るとおかしいっていうね。本来目線に立ち返って、その本来を実現しようと思えば自分で始めるしかない、というのであれば起業という選択肢になります。

―創業時の苦労は?

中野氏:僕の場合はちょっと特殊。この会社を始めるまで普通にサラリーマンで、セゾングループの社員でありながら会社を作りたいんだということでお金ないですから、当時は自分のいるところからどうやってお金を出してもらおうかなって発想だったんで、聞こえの良いことを並べて、ある意味“うまくやって”資本をもらったんですよね。

そこまではよかったんですけど、資本を出す方は僕の考えに100%共感して、そこに至ったわけではない、資本を出した方は「いくら儲けてくれるんだ」、当然そういう思いでいる。そういうギャップが辛かったですね。僕は儲けるために資本をくれと言ったわけではないけれど、お金を出してもらうために“うまくやった”ところはあったわけです。

ですが、0円からの投信会社でしたから赤字垂れ流しだったんですね。1年目から大赤字で、キャッシュフローが黒字に転じたのは8年目。それまでの間は何が一番つらかったかっていうと、株主に対して、赤字になった分、毎年増資をしてもらわないといけないんです。

大河:赤字の補填のための増資ですか。

中野氏:債務超過だと運用会社としての登録をはく奪されてしまうんですよ。株主に、それこそ土下座して頼み込むわけですが、そのたびに非常に厳しい注文を株主から受けまして。それでもなんとか増資しないと会社が無くなってしまうと必死でした。でも屈辱的でしたね。間違いなく自分の方が圧倒的に正しくて高いレベルのことをやっているのに理解されないのかと。一生忘れないと思います。

それでも頑張れたのは、どんなに小さくても会社を始めてしまうと僕を信じて、託してくれているお客さまが、1,000人、10,000人と積み上がってくる、ここへの責任感のみですよね。つぶれちゃったらごめんなさいでは済まされない。こんなちっちゃくて赤字でまっかっかの会社に大事なお金を預けてくれている。

だからもう、それは自分が命に代えてでも守らないといけない、そういう思いですよね。ま、裏にはいつか悔しさを晴らしてやるという株主たちへの思いもありましたね(笑)

大河:僕は38歳のときに当時の同僚と独立して、ジェクトワンの前身になる会社を立ち上げたんです。ただ、5年ほど経ったときにちょうどリーマンショックが起こって民事再生になってしまって。当時僕は専務取締役という立場だったので、また一からやり直そうと立ち上げたのがジェクトワン。13年前のことです。当時、なけなしのお金をはたいて資本金500万円から始めて。経理と営業マンと、安いお給料で何とか来てもらって3人でスタートしました。

当時はお金なくて、リーマンショックで市況も悪くて、とりあえず仲介の細々とした仕事をしていたんですけど、あるとき4人目で入社した証券会社出身の社員が「僕がFXで運用して、毎日4~5万増やしますよ、月に100万以上はいけますよ!」と言うんです。まずはデモでやってみようとなって、一週間デモしたら「なんだ、デモだったのか!」というくらい本当に儲けたんですよ。で、実際やったら、3日で100万消えました。

中野氏:3日ですか!?

大河:当時本当にショックで…それを見ていた僕の親しい人が、「俺が取り返してやりますよ!」と。「じゃあ取り返してくれる?」といって100万円渡したら、それもね、5日か6日ぐらいで無くなってしまって。資本金500万円の会社で200万円消えたわけですから、僕も頭に血が上って、「じゃあ俺がやる!!」と。で、僕が一番もちましてね、まぁ10日ぐらいで…(笑)

中野氏:やはり消えたと(笑)

大河:2,3週間で300万円消えてしまって、こりゃまずいと。経理に相談したら、「もう何事も無かったかのように社長が300万円戻すしかないですよ」と言われて(笑)で、それからもう賭け事はやめよう、きちんと生きていこうと思いました。

中野氏:いやね、すごく苦労されたんでしょうし、すごく面白いんですけど、あんまり共感できないんですよね(笑)

大河:すみません(笑)ただ、創業時に何が苦しかったか、と聞かれたならば、資本金500万円の会社で300万円がFXで消えた、ということですね(笑)

―創業時の苦労を経て、その苦労が実を結んだ、と感じた瞬間はいつでしたか?

大河:創業して間もない頃は、土地を買いたいと思っても、もちろん資金もないので、細々と仲介の仕事や競売物件を落札してそのフィーもらうことなどして食いつないでいました。そうして2年目に入ったとき、千葉県の本八幡で大きいプロジェクトがあって、そのとき初めて東急不動産と一緒にやらせてもらったんです。何か月も本八幡に通って交渉して交渉してなんとか実現して、ある程度利益が入ってきたときに、元々いた雑居ビルから引っ越すことができ、社員も何人か増やしたんです。

中野氏:やっと会社になった、と。

大河:そうですね、初めて会社になったって感じましたね。

中野氏:実は僕、苦労が実を結んだな!というのを感じたのは結構最近なんですよ。

大河:え、そうなんですか?

中野氏:それが昨年2月に達成した運用資産残高3,000億円なんです。僕らの業界において3,000億円というのはそれなりの規模であるという共通認識がありまして。日本株ファンドに限って言えば、創業当時その規模のファンドは無かったので、3,000億円規模のファンドを持っていればもう一人前だと、僕の中で明確に目標にしていたんです。

なので、達成した瞬間、燃え尽き症候群になってしまって。しばらくやる気が出なかったですね…実は新しい社長を指名したのもそれが理由の一つで。自分の立場変えなきゃ、次の目標に情熱を燃やせなくなってしまうかもと。所詮そのぐらいの小さい人間なので、あまり大志が抱けないんですよね(苦笑)

―創業時から変わらない、経営者として大切にしていることは?

中野氏:日本の金融業界って「お客さんのニーズに応える」っていうんです。逆に言えばお客さんの言うことを何でも聞く、言ったままのことを提供するのがサービスだというのが常識になっている。でも僕らは運用会社として最終的に長期投資として預けてくれたお金に対して結果を出してきちっとお返ししないといけない。当社に預ける目的はちゃんとお金を大きく育ててもらって返してもらうことなので。要するにそこに応えるにはお客さんの言うとおりにしてはダメなんですよね。

「顧客を常に適切に導く」、これは単に「顧客ニーズに応える」とはだいぶ違うんですよ。この発想が日本の金融業界にはないがゆえに、顧客本位の業務運営がちゃんとした形で根付かないんですよ。セゾン投信が大切にしているのはそこです。顧客を適切に導くには間違いを指摘しないといけない、叱咤激励も必要だし、具体的にこうしてくださいと常に言い続けないといけない。それが結果、信頼につながるし、お客さまに寄り添うということです。運用会社って、お客さんに耳障りの悪いこともいつも言い続ける、ダメだと叱るときもあるぐらい。

でもそれはいつか「ありがとう」って信頼してもらえるベースになると思うんです。僕はいつも「お客さんと僕らは対等」ってうちのメンバーたちにも言っていて。決して上から目線ではないけれど、同じ目線で対等で。お客さんを幸せにするからこそ、僕らも幸せにさせていただいているのだと。そこは創業時から会社の個性として一貫していますね。

大河:「顧客本位」について本質を考えさせられますね。

中野氏:不動産業界のビジネス慣習のようなことはあります?

大河:不動産会社の特徴ってかなりアナログで、簡単に利益が出せる、儲かるという方に流れる傾向にあるんです。でも僕は、単純にわかりやすいことだけではなくて、ある意味、社会貢献性がありつつ利益になる、その二つがかみ合わないとだめだと思っていて。利益を出すだけでもだめだし、社会貢献だけではNPO法人みたいになってしまうし、それらがマッチした事業をやっていきたいなと思っています。自分の単純思考で街並みを壊すようなものを作らないだとか。

空き家事業は、2015年に空家等対策の推進に関する特別措置法が施行されてから開始したのですが、元々、わかりやすく社会貢献性があるものについて何かビジネスモデルを構築したいなと考えていてやりだしたというのがきっかけです。始めて5年経ちましたが、そのセクションはずっと赤字だったんですね。

中野氏:やはり儲からないのですか。

大河:おかげさまで年々お問い合わせいただく数が増えてきまして、最近ようやく収益事業らしくなってきたぐらいですね(苦笑)当初から10年計画ぐらいでスタートしたプロジェクトで、なんでそこまでかかるかっていうと、どこの会社もやったことなかったですし、ビジネスモデルも構築できていないんです。ただ、うちの会社は幸運にも他の事業部で多少余裕があって利益が出せるという状態にあったので、この事業に投資して、何か新しいものを育てようと始めました。

もちろん、目指しているところは、収益事業としての基盤を確立して、「空き家活用=ジェクトワン」という社会認知性を得ることによってアドバンテージとりたいと思ってやっていて。道半ばのプロジェクトなんですけど、微力ながら、世間のお役に立ち始めているところもあるので。一方でマンションやオフィスビルといった開発をして、一方で一人一人と向き合って空き家を活用していく。これはめげずにやり続けていきたいですね。

中野氏:それこそ社会的課題解決の存在っていうね。ビジネスってそれがないと、持続的でありえないんですね。だから今すぐ儲かるものを転がしていっても、それは誰でも同じことをやるので、やがてそれは世の中に露見し相手にされなくなる。大事なことは社会に向けてきちんと価値を提供すること。みんながそれを請け負って幸せになる、というのがビジネスの根底になければ支持され続けないので、そこをきちんとやり続けている会社が他になければ、やがてビジネスモデルが成熟したときにものすごい創業者利得を取れるはずなんですよね。

そしてレピュテーションもそのときには確立していると。全く理解できますね。納得だし、極めて王道だと思うし。空き家事業は社会的に評価されるもの。地域再生のヒントもここにはあるし、大きな社会的課題の解決に向けた価値あるビジネスだと思います。

大河:非常に光栄です。今では行政にも認知度が高まってきていまして、そもそもの社会の空き家に対する考え方について、公民連携での啓蒙活動も行っています。

後編に続く)

対談者紹介

中野晴啓(なかの・はるひろ)氏/セゾン投信株式会社代表取締役会長CEO

東京都出身。1987年クレディセゾンに入社。セゾングループ内の投資顧問事業を立ち上げ、海外資産運用コンサルティングなどに従事。インベストメント事業部長等を経て、2006年にセゾン投信株式会社を創業。以来、「セゾン 資産形成の達人ファンド」「セゾン バンガード・グローバルバランスファンド」の2本の長期資産育成型ファンドを通じて「長期・積立・国際分散」投資の啓発活動を行っている。2021年4月2日、2本のファンドを合わせた運用資産残高は4,000億円を突破した。

大河幹男(おおかわ・みきお)/株式会社ジェクトワン代表取締役

三重県出身。大手デベロッパーを経て、「地域や場所ありきの開発をしたい」という思いから2009年に株式会社ジェクトワンを創業。世の中に真に望まれる不動産事業に取り組むために、単一ではなくマルチカテゴリーの不動産事業を展開。2016年より従来の空き家活用とは一線を画した地域に目を向けた社会問題解決型の空き家活用サービス「アキサポ」をスタート。2021年6月より、アキサポの加盟店事業「アキサポネット」を開始。