公開日:2025.06.27 更新日:2025.06.04
NEW相続した空き家を放置するリスクとは?対処法も詳しく解説

「使う予定のない空き家を相続することになったが、今後どう扱えばよいかわからない」「遠方の空き家を処分すべきか判断に迷っている」など、相続した空き家や、今後相続する予定の空き家の扱いに悩む方は少なくありません。
空き家はそのまま放置しておくと思わぬリスクの要因になるため、早めの対処が必要です。本記事では、空き家放置によるデメリットや資産価値の有無に応じた対応方法などについて詳しく解説します。
目次
空き家 相続 とは?手続き・流れの基本を解説

人が亡くなると、その人(被相続人)の財産は家族などの相続人に引き継がれます。これらは相続財産と呼ばれ、空き家や土地といった不動産のほか、現金や預貯金、借入金などの債務、株式などの有価証券、車・貴金属などの動産などが含まれます。
近年は相続によって空き家を取得するケースが全体の半数以上を占めており、2023年の総務省統計では全国の空き家率が13.8%*に達し、過去最高を記録。空き家問題は、相続と深く関わる社会的な課題となっています。
*令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果 / 総務省
相続人の順位

財産の相続先は遺言書があればその内容に従い、なければ法律で定められた配偶者や子どもが財産を継承。引き継がれた財産は相続税の対象になります。
<空き家の相続順位>
① 第1順位の相続人:被相続人の子
② 第2順位の相続人:被相続人の父母
③ 第3順位の相続人:被相続人の兄弟姉妹
※配偶者は必ず法定相続人となります
相続の流れ

空き家を相続する可能性がある場合、いざという時に慌てないためにも被相続人が元気なうちに家族で話し合うことが何より大切です。どの不動産を誰に引き継がせたいか、売却や活用の方針を含め、想いを共有しておくことで、後々のトラブルを防ぐことができます。
相続が発生したら、手続きは主に以下の流れで進めていきます。
①相続の発生
被相続人の死亡後、死亡届の提出や葬儀などを行う。
②相続内容の確認
- 遺言書の確認
遺言書の有無によって財産の分配や手続きが大きく変わる。封印された遺言書があれば、家庭裁判所で「検認」を行う。 - 相続人の確認
戸籍を取り寄せ、法定相続人を確定。 - 財産と負債の調査(3ヶ月以内)
不動産や預金だけでなく、借金などの負債も含めて確認し、相続するかどうかを判断。
③相続の選択
単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選択。
④遺産分割協議
遺言がない場合、相続人同士で話し合い、分割内容をまとめた「遺産分割協議書」を作成。
⑤名義変更の手続き
不動産の名義変更(相続登記)はもちろん、銀行口座や株式なども変更。
⑥相続税の申告と納付
課税対象となる財産がある場合は、10か月以内に期限内に申告・納付。
相続の方法

相続方法には、単純承認・限定承認・相続放棄の3種類があります。
単純承認
単純承認とは、借金などの負債を含め、すべての相続財産をそのまま引き継ぐ方法です。特別な手続きは不要で、相続の開始を知ってから3か月間、何も手続きをしなければ自動的に単純承認したとみなされます。
また、被相続人の葬儀代や入院費などが理由であれば除外されますが、基本的に相続財産を一部でも引き出したり使用したりすると、単純承認したことになってしまうので注意しましょう。
限定承認
限定承認とは、相続によって得たプラスの財産の範囲内でのみ負債を引き継ぐ方法です。負債の全容が不明な場合や、実家に家族が住んでいるなどで相続放棄を避けたいときに使われます。
この手続きは、相続人全員が協力し、相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申請しなくてはなりません。また、裁判所を通す手間や費用もかかるため、実際にはほとんど利用されていないのが現状です。
相続放棄
相続放棄とは、プラスの資産もマイナスの資産も一切引き継がず、相続そのものを放棄する方法。特に、借金などの負債が多く、相続したくない場合によく選ばれます。
相続放棄をするには、自己のために相続の開始があったことを知った日から3か月以内に、家庭裁判所で正式な手続きを行うことが必須。この期限を過ぎると、放棄が認められなくなる可能性があるため、速やかな対応が求められます。
空き家を相続したら相続登記が必要|義務化と手続きの注意点

空き家を相続した際には、不動産の所有者名義を被相続人から相続人へと変更する「相続登記」が必要です。たとえ自分がその空き家に住む場合であっても、名義を変えておかなければ、売却や解体といった処分ができません。空き家の活用や売却、他の家族への譲渡を考えるなら、早めの手続きが重要です。
さらに、2024年(令和6年)4月からは相続登記が義務化され、3年以内に登記をしないと10万円以下の過料が科される可能性があります。相続を受けたら、まずは名義変更を忘れずに行うようにしましょう。
相続した空き家を放置するリスクとデメリット

空き家の増加は重要な社会問題の一つとなっていますが、具体的にどのようなリスクやデメリットがあるのでしょうか?ここでは一般的に起こりやすい4つをご紹介します。
固定資産税や都市計画税がかかる
空き家を所有すると、毎年「固定資産税」や「都市計画税」が発生します。固定資産税は土地や建物に課される税金で、都市計画税は市街化区域内にある不動産にかかるものです。
空き家でも建物がある場合、住宅用地として特例が適用され、敷地面積200㎡以下であれば固定資産税は6分の1、都市計画税は3分の1に軽減されます。ただし、建物を解体して更地にすると軽減措置がなくなり、税負担が大きくなる点には注意が必要です。
被相続人が生前住んでいた家ならこの特例が受けられることが多いため、維持するか処分するかを判断する前に、税制上の優遇措置をしっかり確認しておきましょう。
特定空き家に指定されるおそれがある
適切に管理されていない空き家は、「特定空き家」に指定される可能性があります。
【特定空き家の認定基準】
- そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
引用:「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針(国土交通省)
2015年に施行された「空家等対策特別措置法」に基づいて自治体が指定を行い、対象になると固定資産税の軽減措置が解除され、税負担が最大6倍になってしまうことも。空き家のままでも税金が軽減される制度はありますが、管理が行き届いていないとこうしたペナルティがある点を理解し、早めに対処しておく必要があります。
劣化によって資産価値が下がる
空き家は住む人がいない状態が続くことで、建物の劣化が急速に進みます。築10年で資産価値が半分に、20年を超えるとほとんど価値がなくなると言われており、換気や掃除がされない、給排水管やガス管が劣化する、害虫・害獣が入り込むなど、放置による影響は大きな問題です。
こうした管理不足により建物の状態が悪化すると、いざ売却や賃貸に出そうと思っても難しくなり、資産として活用しにくくなります。相続した空き家は、たとえすぐに利用しないとしても、定期的な管理やメンテナンスを行い、長期的に資産価値を維持するための行動が欠かせません。
近隣への悪影響やトラブルの原因になる
空き家を長期間放置してしまうと、近所とのトラブルにつながるリスクも高まります。雑草が伸び放題になる、不法投棄が起こる、不審者の侵入や放火の危険が出るほか、老朽化による倒壊や、害虫・害獣の温床になるなど、周囲の生活環境にも悪影響を及ぼしかねません。
その結果、周辺住宅の資産価値が下がる恐れもあり、近隣住民から苦情やクレームが寄せられる可能性があります。
空き家に資産価値がある場合の対応

相続した空き家の対処方法は、資産価値があるかどうかで大きく変わってきます。まずは、資産価値がある場合の対応についてご紹介。それぞれのメリット・デメリットを比較し、自分に合った最適な活用法を見極めましょう。
売却する
空き家に住む予定がない場合、売却は有効な選択肢のひとつ。売却すれば管理の手間や税金といった維持コストがなくなり、現金化することで遺産分割もしやすくなります。また、築年数が経過するほど資産価値は下がるため、将来の負担を回避できます。
さらに、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」が適用されれば、最大3,000万円までの譲渡所得が非課税となり、節税にもつながります。ただし、これは相続開始から3年以内に売却し、一定の条件を満たす必要があるため、タイミングと条件をしっかり確認しておくようにしましょう。
貸し出す
空き家を賃貸物件として活用すれば、毎月の家賃収入を得ることが可能です。年間20万円以上の不動産所得がある場合には確定申告が必要になりますが、放置してコストだけがかかり続けるより、一定の利益を生み出してくれる方がメリットは大きいでしょう。
ただし、貸し出す前にリフォームや清掃などで初期費用がかかる点がデメリット。貸し出し後も貸主としての責任が生じるため、設備の不具合やトラブルがあれば自ら対処しなければなりません。
加えて、空き家を賃貸に出すと売却のタイミングが難しくなるほか、先ほどご紹介した「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」が使えなくなるため、将来的な選択肢が限定される可能性があり、長期的な損益を考えて判断することが大切です。
住居にする
相続した空き家を自らの住居として活用する方法もあります。現在賃貸に住んでいて家賃を支払っている方にとっては、住むことで生活費の節約にもつながるでしょう。また、自宅やセカンドハウスとして使用することで、住宅用地に対する特例措置を維持でき、「特定空き家」の指定を避けられる点もメリットです。セカンドハウスとして使う場合には、自治体による認定が必要になるため、事前に確認しておくことをおすすめします。
一方で、築年数が古い建物の場合、修繕費や維持費が予想以上にかかるケースもあります。長期的な視点での費用対効果をしっかり見極めて判断するようにしましょう。
資産価値が低い空き家への対応策

続いて、相続した空き家に資産価値がない場合の対応方法についてご紹介。
資産価値の低い空き家を持ち続けると、管理や税金などの負担がかかってしまいます。将来的なリスクを回避するためにも、適切な方法で処分・活用を検討しましょう。
相続放棄する
相続放棄とは、被相続人の財産すべてを受け取らない手続きのこと。相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所で手続きを行えば、空き家にかかる維持費や固定資産税の負担を回避できます。
ただし、特定の財産だけを放棄することはできず、すべてを放棄することになる点には要注意。また、放棄後も一時的に管理義務が残るケースも見られます。空き家以外に資産がなく、借金や維持費の負担だけが残るような場合などには、有効な選択肢となるでしょう。
解体する
老朽化した空き家を解体して更地にすることで、建物にかかる固定資産税などの負担がなくなるうえ、売却しやすくなったり駐車場として活用できたりと選択肢が広がります。
もちろん解体には費用がかかるため、コスト面も考えなくてはなりません。解体には一般的に100万円以上かかることがほとんど。また、土地の固定資産税も住宅用地の特例が外れてしまうので、基本的には高くなってしまいます。
なお、解体したいけれど少しでも節税したいという方は、1月1日以降の解体がおすすめ。固定資産税は毎年1月1日に決まるので、その時点で建物が残っていれば次の年も住宅用地の特例を受けることができます。
空き家の中には再建築不可物件もあり、現行の建築基準法上建物の再建築ができず、資産価値が下がることもあるため、解体するかどうかは専門家に相談して決めたほうがよいでしょう。
法人や自治体に寄付する
法人や自治体への寄付も、空き家を処分する際の有効な手段のひとつ。
登記手続きや登録免許税、司法書士への報酬などの費用はかかるものの、一部の自治体では一定の条件を満たせば空き家を無償で引き取ってくれることがあります。
不動産の寄付が『贈与』に該当する場合、譲渡所得税が課せられる可能性がありますが、国や地方公共団体への無償譲渡であれば、原則非課税です(租税特別措置法第40条)。処分先と手続き内容をよく確認して進めるようにしましょう。
個人へ無償譲渡する
不要な空き家や土地を、駐車場や家庭菜園用など活用できるケースがあるため、無償であれば資産価値がなくても知人や近隣住民が引き取ってくれる場合があります。
身近に引き取り手がいない場合は「空き家バンク」と呼ばれる自治体の情報サイトを利用するのもおすすめ。地方移住希望者や古民家を求める人に無償で譲渡できるチャンスにつながります。
コスト面については、譲渡による収入がなければ、譲り渡す側への税金は基本的に発生しませんが、受け取る側に贈与税がかかる可能性があります。
相続土地国庫帰属制度を利用する
不要な土地のみを国に引き取ってもらえる「相続土地国庫帰属制度」という制度を利用するのも方法のひとつ。2023年4月から始まったもので、相続登記申請の義務化がされていなかったことにより(令和6年4月1日より義務化)登記されずに放置され、所有者が分からなくなった土地が年々増えているという問題を背景に制定されたものです。
相続放棄とは異なり、土地だけを手放し、故人の預貯金や株式など他の資産は相続することができる点がメリット。ただし、更地であることや一定の条件を満たす必要があり、全ての土地が対象になるわけではありません。
また、制度を利用するには審査料(1筆あたり14,000円)や、土地管理にかかる費用を基にした負担金の支払いも必要になります。
相続した空き家は放置せず早めの対応を
空き家を放置すると、維持費がかさみ、売却や活用が難しくなることがあるため、早めの対処が必須です。
一方で、適切な判断には専門的な知識が必要になる場合もあります。不動産鑑定士や税理士などの専門家に相談して適切な方法を見極め、損をすることなく有効に活用・処分できるよう、計画的に進めましょう。