公開日:2025.09.10 更新日:2025.08.04
NEW贈与税とは?課税の仕組みから非課税制度まで徹底解説

贈与税がかかるのは多額の資産を持っている人だけだと思ってはいないでしょうか?じつは贈与税は一般的な家庭でも例外なく適用され、知らず知らずのうちに贈与税の対象になる行為をしている可能性があります。特に親子間や夫婦間でまとまったお金を移動する際には注意が必要です。
そこでこの記事では、贈与税の基本的な仕組みから、非課税になる代表的なケース、税額の計算方法、そして相続税との関係までを幅広く解説します。贈与で損をしないためにも、まずは制度の全体像を正しく押さえておきましょう。
目次
贈与税の基本:課税対象と非課税財産

贈与税は、個人間で財産を渡すときに発生する税金です。対象となる「財産」は金銭に見積もることができる経済的価値のあるものとされており、現金や預貯金、宝石、不動産などの「物」だけでなく、特許権や著作権といった権利も対象になります。
税率は贈与額に応じて設定されており、最小が10%、最大が55%となっています。税率と計算式はのちほど詳しく解説します。
なお、贈与税は親子や夫婦など、親族間での贈与でも課税対象になることがあります。ただし、生活費や教育費のように日常生活に必要な支出であれば非課税となる場合もあるので、贈与を検討する際は制度の概要と非課税になるパターンを把握しておくことが大切です。
贈与とみなされるケース
財産に該当するものをあげた・受け取った場合は基本的に贈与とみなされます。なお、「贈与」の定義は民法に規定されており「当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる」とされています。
なお、贈与は民法上の契約であり、受贈者の受諾がなければ成立しません。一方的な贈与は成立しないので、この点は覚えておきましょう。
みなし贈与の具体例と注意点
みなし贈与とは、形式的に贈与といえなくても、実質的に財産が移転したと見なされるケースのことです。たとえば、親が契約者・保険料負担者で、子どもが受取人になっている生命保険は、保険金の受け取り時に贈与とみなされることがあります。
また、借金の肩代わりや債務免除、名義預金などもみなし贈与としてみなされる場合があります。金額が大きいと贈与税も高額になるため、これらを行う際には贈与税が発生することを前提とした計画を立てましょう。
贈与税がかからない代表的なケース

贈与税がかからない代表的なケースは以下の5パターンです。
- 1.年間110万円以下の贈与
- 2.生活費・教育費としての贈与
- 3.婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与
- 4.相続時精算課税制度を活用する場合
- 5.住宅取得等資金・結婚・子育て・教育資金の贈与
特に1や5は日常生活の中でもよく発生するので、知らず知らずのうちに該当する贈与を行っている可能性があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
年間110万円以下の贈与
贈与税には「基礎控除」として、年間110万円までの贈与が非課税になる制度があります。これは「暦年課税」と呼ばれ、贈与額は毎年1月1日から12月31日までの期間で判定されます。
たとえば、親が子に毎年お金を渡していた場合は、その金額が110万円以下であれば、贈与税の申告や納税は不要です。ただし、親子間で定期的な贈与を行う契約もしくは約束がなされていた場合は、定期金給付契約に基づく定期金に関する権利の贈与があったとみなされ、将来的にまとめて課税されるリスクもあります。
そのため、毎年贈与を行いたい場合は、あらかじめ専門家に相談をしたうえでスケジュールやタイミングを検討することをおすすめします。
生活費・教育費としての贈与
上記の表の「2.夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの」に該当するケースです。
家族に対して生活費や教育費を援助する場合、それが日常生活に必要な支出であれば贈与税はかかりません。これには、治療費や養育費などの子育てに関する費用や学費や教材費といった教育費も含まれます。
一方で、明らかに過剰な支出や贅沢品の購入などは通常の範囲を超えると判断され、課税対象となる場合があります。また、生活費や教育費として贈与を受けた財産を預金したり、株式や不動産の買入に使ったりした場合もこの枠組みから外れ、贈与としてみなされます。
夫婦間の贈与:配偶者控除(おしどり贈与)
婚姻期間20年以上の夫婦間では、居住用不動産またはそれを取得するための資金を贈与する場合、贈与を受けた額から最大2,000万円を非課税とする配偶者控除が可能です。この制度は110万円の基礎控除と併用できるので、これらを合算すると合計2,110万円までの贈与が可能です。
ただし、この制度は同一の配偶者からの贈与に関しては、一生に一度しか受けることができません。また、贈与を受ける不動産は、あくまで居住目的であり、その後も住み続けることが前提となります。
相続時精算課税制度を活用する場合
相続時精算課税制度とは、60歳以上の親・祖父母が18歳以上の子・孫に贈与する場合に累計2,500万円までの贈与を非課税とし、贈与者が亡くなったときに相続税で清算できるようにする制度です。
この制度を利用するには贈与を受け取った翌年の2月1日から3月15日の間に「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があります。
相続時精算課税制度を一度選択すると、その贈与者との間では暦年課税に戻すことはできません。検討する際には相続時に支払い能力があることを前提に計画する必要があります。
住宅取得等資金・結婚・子育て・教育資金贈与の特例
直系尊属にあたる父母や祖父母から住宅購入や結婚・出産・教育といったライフイベントに関する贈与を受ける場合は、特定の条件ごとに一定額までの非課税とする制度が用意されています。各制度の概要は以下のとおりです。
- 住宅取得等資金
自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得または増改築などの代金に充てるもの。省エネ住宅の場合は最大1,000万円、それ以外の住宅は最大500万円まで非課税 - 教育資金の一括贈与
教育資金を目的とした1,500万円以下の贈与。対象者は30歳未満の人で、贈与は専用の口座を介して行う - 結婚・子育て資金の一括贈与
結婚・子育て資金を目的とした1,000万円以下の贈与。対象者は18歳以上50歳未満の人で、贈与は専用の口座を介して行う
これらの制度には、それぞれ細かな条件が定められています。国税庁のWebサイトで詳しく解説されているので、検討する際には必ずチェックしてください。
住宅取得資金(直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税)
教育資金の一括贈与(直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税)
結婚・子育て資金の一括贈与(直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税)
贈与税の計算方法と税率

贈与税の税率は、1年間に受け取った財産の金額から基礎控除額を差し引いた額に応じて、以下のように税率が設定されています。
贈与を受けた額 | 200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 3,000万円超 |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
贈与税を求める場合は、基本的には贈与を受けた額に対して上記の税率をかければOKです。ただし、贈与税には「一般税率」と「特例税率」という2パターンがあるので、その点だけ注意しましょう。
ここでは、「一般税率」と「特例税率」の違いと、具体的な計算例を紹介します。
一般税率と特例税率の違い
贈与税の税率には「一般税率」と「特例税率」の2種類があります。どちらが適用されるかは、贈与の相手によって決まります。
- 一般税率:兄弟姉妹・友人・その他の第三者など、直系尊属以外からの贈与に適用
- 特例税率:親・祖父母などの直系尊属から18歳以上の子・孫などへの贈与に適用
特例税率は1年間に受け取った財産の金額から基礎控除額を差し引いた額に応じて以下のように定められています。
贈与を受けた額 | 200万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万円超 |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
税額の具体例(現金・不動産・金融資産)
まず贈与税を算出する手順ですが、一般的には以下の手順で進めていきます。
- 1.贈与を受けた金額の合計を求める
- 2.合計額から基礎控除(110万円)を差し引く
- 3.残りの金額(課税価格)に税率を掛け、控除額を差し引く
- 4.結果が贈与税額となる
これを計算式にすると以下のようになります。
(贈与を受けた合計額 - 110万円)× 金額に応じた税率 - 控除額 = 贈与税額
たとえば、課税価格が390万円で、特例税率を使う場合は以下のようになります。
- 税率:15%
- 控除額:10万円
- 計算式:390万円 × 15% − 10万円 = 485,000円
不動産の贈与を受けた場合
不動産の贈与を受けた場合、土地は「路線価」や「固定資産税評価額」、建物は「固定資産税評価額」に基づいて評価します。たとえば、評価額1,000万円の土地を贈与した場合は、1,000万円から基礎控除額の110万円を差し引いた890万円が課税対象です。
株式や投資信託など金融資産の贈与
株式や投資信託などの金融資産は、贈与時点の時価を評価額として算出します。金融資産は市場価格が日々変動するため、贈与を行う場合は時価が高騰していないか注意しながら計画しましょう。
親が子に上場株式500株を贈与した場合(1株あたりの時価が10,000円)
- 1.贈与額:10,000円 × 500株 = 500万円
- 2.基礎控除110万円を差し引く → 課税価格:390万円
- 3.特例税率 → 税率:15%、控除額:10万円
- 4.計算式 → 390万円 × 15% − 10万円 = 485,000円
親子・夫婦間の贈与
親子や夫婦間で財産を贈与する場合は、特例税率や配偶者控除が適用できるかをチェックしましょう。たとえば、以下のようなパターンが考えられます。
親が成人した子に500万円を贈与した場合
- 贈与額:500万円
- 基礎控除(110万円)を差し引く → 課税価格:390万円
- 特例税率表で確認 → 税率:15%、控除額:10万円
- 計算式 → 390万円 × 15% − 10万円 = 485,000円
夫が妻に2,500万円の居住用不動産を贈与した場合
- 贈与額:2,500万円
- 控除合計:2,110万円(配偶者控除2,000万円+基礎控除110万円)
- 課税価格:2,500万円 − 2,110万円 = 390万円
- 税率は一般税率 → 390万円 → 税率:20%、控除額:25万円
- 計算式 → 390万円 × 20% − 25万円 = 550,000円
贈与税の申告と納付のルール

贈与税が発生する贈与を受けた場合は、その翌年の期限内に贈与税申告を行い、贈与税を納める義務が発生します。申告を怠ると延滞税や加算税が発生することもあるため、ルールを正しく押さえておきましょう。
ここでは、申告が必要なケースや手続きの流れ、納付の注意点について解説します。
申告が必要なケースと不要なケース
原則として、1年間(1月1日〜12月31日)にもらった財産の合計が110万円を超えた場合は、贈与税の申告が必要です。
また、配偶者控除や相続時精算課税制度などの特例を適用する場合は、税額がゼロであっても申告書の提出が義務付けられています。
一方で、以下のようなケースでは申告不要です。
- 年間110万円以内の贈与
- 通常の生活費・教育費の範囲内での援助
- 社会通念上の香典や災害見舞金としての贈与 など
ただし、非課税とされる内容でも、税務署から確認を求められる可能性はあります。資金の使い道が明確にわかるように、領収書・通帳の履歴・贈与契約書などを保管しておくと安心です。
申告書類の準備と提出方法
贈与税の申告期間
贈与税申告書の提出期間は、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までです。2月1日と3月15日が土日祝日の場合はその次の平日となります。
申告書の入手と提出方法
申告書は、最寄りの税務署または国税庁のウェブサイトからダウンロード可能です。提出は以下のいずれかの方法で行えます。
- 税務署に持参
- 郵送で提出
- e-Tax(電子申告)を利用
必要書類の例
贈与税申告は、贈与税申告書に以下のような書類を添付して提出します。必要になる書類は贈与を受けた財産の種類や適用する特例などによって変わります。
提出する基本の書類
- 贈与税申告書
- 本人確認書類
添付する書類の例
- 戸籍謄本(特例税率を適用する場合、配偶者控除を利用する場合など)
- 固定資産評価証明書(不動産の贈与を受けた場合)
- 相続時精算課税制度選択届出(相続時精算課税制度を利用する場合)
- 住宅の工事請負書や売買契約書など(住宅取得等資金贈与を利用する場合)
申告期限・納付期限と延滞リスク
贈与税の申告や納付が遅れると、以下のような追加負担が発生します。
- 延滞税:納期限からの遅延日数に応じて加算
- 無申告加算税:申告を忘れていた場合に課されるペナルティ(最大20%)
支払いが難しい場合は「延納(分割払い)」や「物納(不動産などで納税)」といった制度もありますが、適用には厳しい条件があります。基本は期限内に一括納付できるよう、早めに準備することが大切です。
贈与税と相続税の関係は?知っておきたい関係性

贈与税と相続税は、それぞれ異なる税制度ですが、財産を受け継ぐ際にかかる税金として共通しており、場合によっては財産の移動を贈与と相続のどちらとして扱うかが問われることがあります。ここでは、両者の関係として必ず覚えておきたい2つのポイントを紹介します。
贈与が将来の相続税額に与える影響
生前に財産を贈与しておけば、その分だけ将来の相続財産が減り、結果的に相続税の節税につながります。そのため、毎年110万円以内の贈与を継続的に行う「暦年贈与」は、代表的な節税手法として広く利用されています。
ただし、すべての贈与がそのまま節税になるとは限りません。相続税には「生前贈与加算」(相続税法第19条の3)という制度があり、相続開始前7年以内に行われた贈与は、原則として相続財産に加算されてしまいます。つまり、相続直前にまとめて贈与を行っても節税効果は薄いということです。
また、相続税の課税対象となるかどうかは、贈与のタイミングだけでなく、誰に対して贈与を行ったかや贈与の内容が形式的に整っていたかによっても判断されます。曖昧な契約や証明書類が不十分な場合には、形式上の贈与と見なされ、課税されるリスクもあるため注意が必要です。
生前贈与加算(持ち戻し)とは?
「生前贈与加算(持ち戻し)」とは、相続開始前の一定期間内に行われた贈与を、相続財産に加算して相続税を計算する制度です。これは、不自然に相続財産を減らして課税逃れをすることを防ぐためで、現在は相続開始前7年以内の贈与がこの対象となります。
たとえば、被相続人が亡くなる3年前に子どもに500万円を贈与した場合、その500万円は「贈与済み」ではなく「相続財産の一部」として扱われ、相続税の課税対象となります。
まとめ:贈与を有効活用し、将来の税負担を軽減する
贈与税の仕組みを理解することは、家族間での財産移転をスムーズに進め、その資産を守るための第一歩です。せっかく貯めた財産を次の世代に繋いでいくためにも、非課税となるケースや特例制度を効率的に活用しましょう。
もし多額の贈与をしたい場合や、特例制度が適用されるか不安な場合などは早めに専門家へ相談するのが得策です。税金の世界は「知らなかった」では済まされないので、制度を正しく使って、安心・納得の財産移転を目指しましょう。
この記事の監修者
白崎 達也 アキサポ 空き家プランナー
一級建築士
中古住宅や使われなくなった建物の再活用に、20年以上携わってきました。
空き家には、建物や不動産の問題だけでなく、心の整理が難しいことも多くあります。あなたが前向きな一歩を踏み出せるよう、心を込めてサポートいたします。