公開日:2025.07.12 更新日:2026.06.10
空き家の相続放棄は危険?2023年民法改正の管理責任と国庫帰属を解説
空き家や借金を引き継ぎたくない…そういった理由から深く考えずに相続放棄を進めてしまうと、想像以上のリスクやトラブルにつながることも。
特に、2023年の民法改正により、保存義務をめぐる管理責任が明確に規定されました。この記事では、相続放棄の基本から空き家に関する管理義務、さらに国庫帰属制度まで、将来の相続や不動産管理に不安を感じている方に向けてわかりやすく解説します。
目次
空き家の相続放棄とは?知っておきたい基本知識

実家を相続したものの、管理や費用の負担が重い——そんなときに検討されるのが「相続放棄」です。
相続放棄とは、被相続人の遺産を一切相続しないことを家庭裁判所に申述する手続きです。現金・不動産だけでなく借金や未払い金も対象となるため、老朽化した空き家にかかる費用負担を避けられる場合があります。
ただし、預貯金や土地などプラスの財産もすべて放棄することになります。思い入れのある実家や将来活用できる土地も一度放棄すれば取り戻せないため、慎重な検討が必要です。
相続放棄の基本的な手順と注意点
相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った日から原則3か月以内」に家庭裁判所へ申し立てる必要があります(民法第915条)。この期間を「熟慮期間」と呼び、過ぎると相続を承認したとみなされ原則として放棄は認められません。
必要書類は被相続人の戸籍謄本・自分の戸籍謄本・相続放棄申述書などです。書類の不備で手続きが遅れると期限を過ぎるリスクがあるため、遠方の空き家や複雑な財産構成の場合は特に早めの対応が重要です。
なお、2023年4月施行の民法改正(第940条)により、相続放棄後の保存義務(管理責任)の条件が明確化されました。放棄時に空き家を「現に占有している場合」に限り、次の相続人または相続財産清算人へ引き渡すまでの間、自己の財産と同様に保存する義務が残ります。実家を離れて久しい場合は「占有」に該当しないケースもあり、義務を免れる可能性があります。
相続放棄のメリット
最大のメリットは、借金や空き家の管理責任を引き継がなくてよい点です。売却も管理もできない空き家・活用予定のない不動産・相続人間のトラブルが生じている場合に有効な選択肢となります。親が借金を抱えていた場合も、その返済義務から解放されます。
相続放棄を選択するデメリットも
| 項目 | 相続放棄のメリット | 相続放棄のデメリット・注意点 |
|---|---|---|
| 財産の引き継ぎ | 亡くなった人の借金や未払い金などの「負債(マイナスの財産)」を一切引き継がなくてよい | 預貯金、土地、思い出のつまった実家などの「プラスの財産」もすべて手放すことになる |
| 管理・税金負担 | 遠方の空き家や活用予定のない不動産の管理、固定資産税の支払い義務から解放される | 原則として一度家庭裁判所に申し立てが受理されると、後から撤回することはできない |
| 人間関係の解決 | 相続人間での遺産分割協議や、財産をめぐるトラブルから法的に離脱できる | 自分が放棄することで、相続権が次の順位の親族(兄弟姉妹や甥姪など)へ自動的に移る |
一方で、相続放棄を選択するデメリットは、預貯金・土地・建物といったプラスの財産も受け取れなくなることです。
たとえば、預貯金や収益化できそうな土地、思い出のつまった不動産なども含まれます。あとになって、やっぱり相続しておけばよかったと思っても、原則として取り戻すことはできません。
収益化できそうな土地が含まれている…遺言書に特別な指示がある…というケースでは、放棄以外の方法も慎重に検討する必要があります。
相続放棄後も管理責任が残る場合があります

相続放棄の手続きを終えても、遺品が残っていたり鍵を持っていたりして実質的に空き家を「占有」している状態であれば、その物件を完全に放置することはできません。
2023年4月施行の改正民法第940条により、放棄時に空き家を現に占有している場合は、次の相続人または相続財産清算人へ引き渡すまでの間、自己の財産と同様に保存する義務(保存義務)が明確化されました。放置して屋根が崩れるなど近隣に損害を与えた場合、民法709条・940条に基づく損害賠償責任を問われる可能性があります。
「相続しない=完全に手放せる」ではないことを念頭に置いておきましょう。
相続人全員が放棄した場合はどうなる?
相続人全員が放棄すると、財産の管理は家庭裁判所が選任する相続財産清算人に移り、最終的には国庫に帰属する流れになります。ただし清算人が管理を始めるまでの間、占有していた人に保存義務が残ります。
放置が続くと行政指導や近隣トラブルに発展するリスクもあるため、早めに専門家へ相談することが重要です。
2023年法改正で「保存義務」に変わった管理義務
法的には「最初から相続人ではなかった」扱いになり、固定資産税などの支払い義務は原則として消滅します。
【改正民法第940条の基準】実家の鍵を管理している、荷物を置き放しにしている、実際に住んでいるなど、直前まで現にその不動産を支配・占有していたかが問われます。
2023年4月施行の改正民法第940条により、相続放棄後も「現に占有している場合」に限り保存義務が課されることが明確化されました。相続する意思があるかどうかに関係なく、占有している事実があれば最低限の管理責任が生じます。
相続人がいない・全員が放棄しているケースでは、早めに家庭裁判所へ相続財産清算人の選任を申し立てることが確実な対応です。
「相続財産清算人」で管理の責任を手放す方法

空き家の相続問題にもう関わりたくない…責任だけが残るのは不安…。そんな状況から抜け出すために検討したいのが、「相続財産清算人」の選任という方法です。
これは、相続人全員が放棄した相続財産を整理したり処分したりするために、家庭裁判所が選任する専門の第三者のこと。言い換えれば、お手上げ状態のときにバトンをわたせる心強い代理人といえるでしょう。
相続財産清算人と相続財産管理人の違いとは?
よく似た言葉に相続財産管理人があります。相続財産清算人も相続財産管理人も、家庭裁判所が選ぶ財産の管理者ですが、役割は異なります。
| 制度の名称 | 主な役割・目的 | 空き家・土地の処分権限 | 対象となる主なケース |
|---|---|---|---|
| 相続財産清算人 (2023年改正で改称) | 相続人が全員放棄したあと、残された遺産(空き家など)を清算・処分する | あり(売却、解体、債務弁済、最終的な国庫帰属まで一括して行う) | 相続人全員が相続放棄を行い、財産を法的に清算・消滅させたい場合 |
| 相続財産管理人 | 相続人がいるか不明・不在のときに、財産が散逸しないよう一時的に保全する | 原則なし(裁判所の許可がない限り、積極的な売却や処分は行わない) | 相続人の有無が分からず、遺産の管理や調査が必要な場合 |
<相続財産管理人>
相続人が不明または不在のときに、財産を一時的に守る役割。主に財産の保全や債務の調査が中心で、積極的な処分までは行いません。
<相続財産清算人>
相続人が全員放棄したときに、残した空き家や土地などを整理・処分する役割。空き家を売却したり、解体したり、債権者への支払いを行ったりと、最終的な清算までを任される立場です。
空き家を売却したり、最終的に国庫に帰属させたりするには、相続財産清算人の存在が欠かせないケースが多くあります。
相続財産清算人の選任と手続き
申し立ては利害関係人(近隣住民・債権者など)または検察官が家庭裁判所に行います。必要書類は被相続人の戸籍・財産目録・相続人全員の相続放棄証明書などです。
費用は申し立て手数料(数千円程度)のほか、弁護士や司法書士など清算人への報酬・事務費用として数十万円の予納金が必要です。費用はかかりますが、空き家の管理責任や損害賠償リスクから解放されるメリットがあります。
清算人選任後の空き家処分の流れ
清算人が選任されると、遺産・債務の確認を経て空き家の処分が進められます。売却可能な物件は不動産会社を通じて売りに出し、老朽化が激しく市場価値が低い場合は解体して更地にするケースもあります。それでも処分が難しい場合は国庫帰属など、家庭裁判所の監督のもと法律に基づいた対応が取られます。
2023年施行の相続土地国庫帰属制度とは

2023年4月27日にスタートした制度で、相続・遺贈により取得した不要な土地を国庫に帰属させることができる仕組みです。相続放棄と異なり「土地だけを手放す」選択ができる点が特徴で、管理責任や固定資産税の負担から解放されます。
対象となる土地の条件
建物がない更地・境界が明確・管理に過分な費用がかからないことなど、厳格な要件があります。以下のような土地は対象外です。
・建物・工作物がある土地
・アスベストを含む建物や土壌汚染・危険物がある土地
・大規模な造成が必要な崖地
・境界が不明確な土地
費用の目安
審査手数料(1筆あたり14,000円)と、承認後の負担金(原則20万円)が必要です。審査手数料は却下されても返金されません。審査期間は8〜10か月程度かかります。
メリット・デメリット
メリットは土地の管理責任・固定資産税・将来の遺産分割トラブルから解放される点です。一方、建物がある場合は解体費用が自己負担になるほか、審査を通過できないケースも少なくありません。利用を検討する場合は、土地の状態を事前に確認し、管轄の法務局に相談することをおすすめします。
相続放棄と国庫帰属制度の違いとは?
借金や不動産などを含めた遺産すべてを引き継がず、相続人としての立場そのものを失う法的手続きが相続放棄。それに対して国庫帰属制度は、すでに相続した土地だけを対象に国に引き取ってもらう制度です。また申請窓口もそれぞれ異なります。
| 比較項目 | 相続放棄 | 相続土地国庫帰属制度 |
|---|---|---|
| 対象となる財産 | 借金、現金、不動産など「すべての遺産」 | すでに相続・遺贈で取得した「土地のみ」(※建物は対象外) |
| 家(建物)の扱い | 空き家も含めて丸ごと放棄可能 | 建物がある土地は申請不可。事前に自己負担で解体・更地にする必要あり |
| 手続きの申請先 | 家庭裁判所(被相続人の最後の住所地を管轄) | 法務局・地方法務局(本局の不動産登記部門など) |
| 期限と費用の特徴 | 原則として「相続開始を知った日から3ヵ月以内」 | 申請期限なし。ただし、審査手数料や10年分の「負担金」の納付が必要 |
共通していえるのは、どちらにも手続き費用や時間がかかること。それぞれのメリット・デメリットを理解し、将来的なリスクを総合的に検討しながら自分のケースに合った方法を選びましょう。
空き家を放置した場合に考えられるリスク

相続した空き家を放置すると、思わぬ責任やトラブルを招く可能性があります。代表的な3つのリスクを解説します。
①倒壊による損害賠償責任
築年数が古く雨漏りやひび割れのある空き家は、強風や地震で倒壊するおそれがあります。隣家や通行人に被害を与えた場合、相続放棄していても実質的に管理・占有していれば、民法940条(保存義務)に基づき損害賠償責任を問われる可能性があります。
②「特定空き家」指定と行政代執行
手入れが行き届かず景観悪化や衛生上の問題が生じると、自治体から「特定空き家」に指定されるリスクがあります。指定後に改善指導・勧告・命令を無視し続けると、最終的に行政代執行で強制解体され、その費用(数百万円規模になることも)が所有者に請求されます。
③相続人・近隣とのトラブル
遺産分割協議が未了のまま放置すると、管理責任や解体費用をめぐって相続人同士の関係が悪化しやすくなります。また、不法投棄や害虫・雑草の発生で近隣に迷惑をかければ苦情や自治体への通報につながり、人間関係のトラブルに発展することもあります。
相続放棄後にも関わる費用・税金
相続放棄しても、土地・建物を引き続き管理・占有していると見なされる場合、税金や費用が発生することがあります。
固定資産税・都市計画税について
相続放棄が家庭裁判所に受理されると、その相続人は「初めから相続人でなかった」とみなされ、固定資産税の納税義務も遡って消滅します。ただし役所が放棄の事実を把握していない場合、納付書が届くことがあります。その際は「相続放棄申述受理通知書(または証明書)」の写しを市区町村の税務窓口に提示すれば課税・請求を止めることができます。
解体費・補修費用の負担
屋根や外壁が崩れかけている空き家は、危険回避のために解体・補修が必要になることがあります。相続放棄後でも、実質的に占有していた場合は民法940条の保存義務に基づき近隣への賠償責任を問われる可能性があります。
「放棄したから無関係」とは言い切れないリスクを踏まえ、相続財産清算人の選任や相続土地国庫帰属制度の活用など、明確な処分方針を早めに検討することが重要です。
相続放棄の手続きを行う際の注意点と手順

相続放棄を検討する際は、手続きの期限・撤回の制限・他の相続人への影響といった見落としやすいポイントを事前に把握しておくことが重要です。
相続放棄は3か月以内に行う必要がある
被相続人の死亡を知った日から3か月以内に、家庭裁判所へ申し立てる必要があります。葬儀や遺品整理に追われるうちに期限が過ぎてしまうケースは少なくありません。期限を過ぎると借金・不動産を含むすべての相続財産を承継しなければならなくなるため、起算日の確認を最優先にしましょう。
放棄の撤回は原則できない
一度申し立てた相続放棄は原則として撤回できません。詐欺・脅迫による場合など極めて限定的なケースで家庭裁判所が撤回を認めることはありますが、他の相続人との関係悪化や手続きの複雑化というリスクも伴います。
他の相続人への影響と事前連絡の重要性
自分が放棄すると相続権は次の順位の相続人(兄弟姉妹・甥姪など)に移ります。空き家の管理責任や固定資産税の負担が突然のしかかることになるため、放棄を決める前に関係者と情報共有しておくことがトラブル防止につながります。
専門家への相談が必要な場面
相続放棄は家庭裁判所への申し立てだけでなく、遺産の全容把握・税金対応・不動産の管理責任・相続土地国庫帰属制度の活用判断など複合的な課題が絡みます。判断が難しい場合は、弁護士・司法書士・税理士に早めに相談することで、余計な費用やトラブルを避けることができます。
よくある質問
まとめ|相続放棄=解決ではない、空き家管理のリスクにご用心
空き家を相続するか放棄するか。その判断は、私たち自身の今後の生活にも大きく影響します。相続放棄すれば空き家のことは関係ないではなく、その後もトラブルや費用の負担が続くケースがあります。2023年の法改正で保存義務というルールもはっきりしたことで、近所に迷惑をかけて損害賠償が発生したり、特定空き家に指定されて強制的に解体されたりするリスクもあるでしょう。
その打開策として、相続財産清算人を立てる方法や相続土地国庫帰属制度を使って国に引き取ってもらうという選択肢もあります。まずは自分の状況を整理して、家族や親族とも話し合いながら、できるだけ早い段階で弁護士や専門家に相談することが大切です。
この記事の監修者
白崎 達也 アキサポ 空き家プランナー
一級建築士
中古住宅や使われなくなった建物の再活用に、20年以上携わってきました。
空き家には、建物や不動産の問題だけでなく、心の整理が難しいことも多くあります。あなたが前向きな一歩を踏み出せるよう、心を込めてサポートいたします。