公開日:2025.10.26 更新日:2025.10.27
NEW民泊経営を始めるには?手続きや費用、関係法令などを解説
民泊が広く浸透するにしたがって、空き家やマンションの一室を有効活用したいと考える人が増えています。
しかし、始めるための手続きや収益を上げるための方法などを考えると、なかなか第一歩が踏み出せない方も多いのではないでしょうか?実際、民泊は新しい宿泊形態として注目を集める反面、法律やルールを守らずに運営したことによるトラブルも目立っています。
特に住宅宿泊事業法に基づく「180日ルール」や、建築基準法・消防法といった各種規制は、開業前に必ず確認すべきポイントです。また、近隣住民との関係づくりやゲスト対応の質も、安定的に収益を確保するために欠かせません。
そこでこの記事では、民泊の基本的な仕組みや関連法令、開業までの流れや費用の目安、成功のために意識したい運営ポイントまでをわかりやすく解説します。事前に正しい知識を整理しておけば、安心して民泊経営をスタートできるでしょう。
目次
民泊経営とは?定義や仕組みを解説

民泊とは、自宅やマンションといった居住用の不動産を、旅行者や出張者など短期で滞在する人に貸し出す宿泊サービスのことです。従来のホテルや旅館と違い、生活感のある空間を利用できるため、地域の日常に触れられるとして、海外からの観光客に多く利用されています。
また、空き家やマンションの空き室を活用できる点も大きな特徴です。これまで維持するだけだった物件を有効活用できる可能性があるため、観光地や都市部を中心に取り組みを始める人が増えています。
なお、民泊制度には「旅館業法に基づく簡易宿所型」「住宅宿泊事業法(いわゆる民泊新法)に基づく住宅型」「国家戦略特区を活用した特区民泊」という複数の仕組みがあります。どの制度を選ぶかによって必要な手続きや営業日数の上限が変わるため、事前に運営形態を整理しておきましょう。
ホテル・旅館との違い
民泊とホテル・旅館の大きな違いは「運営体制」にあります。ホテルや旅館がフロント業務や24時間対応など、法人を前提とした大規模な運営が一般的なのに対し、民泊は個人や小規模事業者が主体になるケースが多く、物件の独自性や、ゲストに合わせたパーソナルなサービスが強みとなります。
また、法律上も両者には大きな違いがあります。ホテル・旅館は「旅館業法」に基づく許可制で事業を行いますが、民泊は「住宅宿泊事業法(民泊新法)」を根拠とする届出制で実施します。
これらの法律に基づき、ホテルにはフロント設置や客室数などの厳格な施設要件が課されるのに対し、民泊では宿泊者名簿の作成や近隣住民への周知といった別の義務が課されます。
民泊経営の180日ルールとは
民泊でよく耳にする「180日ルール」とは、住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づき、居住用物件を民泊として提供できる日数を年間180日以内と制限したルールのことです。これは、ホテルや旅館との過度な競合を避けたり、無秩序な営業で周辺地域の生活環境を悪化させたりすることを防ぐために設けられています。
もし届出を怠ったり、法律違反を犯したりした場合は、業務改善命令・業務停止命令が下されたり、100万円以下の罰金または6カ月以下の懲役が科されたりする可能性があります。安全かつ安定した運営のために、法律を遵守したうえで周辺地域への配慮を忘れないようにしましょう。
民泊経営に関係する主な法律

民泊には、民泊新法以外にも複数の法律が関係しています。特に、民泊施設の立地条件や消防設備の設置状況などは、民泊をするうえで欠かせないポイントです。
そこでここでは、必ず押さえておきたい以下の4つの法律が、どう関わってくるのかを解説します。
- 住宅宿泊事業法(民泊新法)
- 都市計画法
- 建築基準法
- 消防法
住宅宿泊事業法(民泊新法)
住宅宿泊事業法(民泊新法)は、無許可の民泊営業が社会問題化したことを背景に、2018年6月に施行された法律です。住宅を活用した宿泊サービスのルールを明確化し、健全な民泊市場の整備や利用者の安全確保、地域住民との共生などを目的としています。
主な内容は、居住用物件を民泊として提供できる日数を年間180日以内に制限することや、営業を行う前に都道府県知事(政令市や中核市では市長)への届出が必要なことなどです。
さらに、物件の所在地や管理方法によっては、管理業者との委託契約や、近隣住民への事前周知、滞在者名簿の作成・保存などの追加要件が課されることがあります。
都市計画法
都市計画法とは、土地利用に適切な規制をかけることで、地域ごとに適切な建築物の立地を促すための法律です。本法律には「用途地域」という、立地可能な建築物の用途を定めた制度があり、民泊施設もこの規制の影響を受けます。
民泊新法に基づく民泊を行う場合、その住宅の用途はあくまで「住宅」であり、住宅を一時的に貸し出すという扱いになります。この場合、以下のエリアで民泊の営業が可能になります。
- 第一種低層住居専用地域
- 第二種低層住居専用地域
- 第一種中高層住居専用地域
- 第二種中高層住居専用地域
- 第一種住居地域
- 第二種住居地域
- 準住居地域
- 田園住居地域
- 近隣商業地域
- 商業地域
- 準工業地域
- 工業地域
一方で、工業専用地域では、そもそも住宅の立地が認められていないため、原則として民泊の営業はできません。
建築基準法
建築基準法は、建物の安全性や衛生環境を守るための基本法で、主に民泊を運営する住宅の設備や間取りなどの関係で関わってきます。
まず、必ず必要なのが、民泊を行おうとする建築物の用途の確認です。民泊は住宅を一時的に宿泊用に貸し出す行為であるため、建築基準法上の住宅(住宅、長屋、共同住宅、寄宿舎)に該当している必要があります。建築物の用途は、その建築物を建築した際に取得した建築確認書に記載されています。
なお、住宅に該当しているうえで、台所、浴室、便所、洗面設備が設けられていることが必要です。
また、宿泊者の安全を確保するための要件として、避難時の非常用照明器具の設置や、防火区画等の措置が必要になります。宿泊施設の運営は、利用者の安全を保証することが大前提であるため、必ず守りましょう。詳細な条件は、間違いがないように各自治体の建築窓口で直接確認してください。
消防法
消防法は、火災予防や避難安全を目的とした法律であり、民泊経営において最も厳格な要件が課される分野の一つです。民泊物件では、火災報知器の設置や避難経路の確保、消火器の常備などが義務化されています。
以下の表に主な対応内容をまとめました。
| 一般住宅 | 共同住宅 | 宿泊施設 | 複合施設 | |
| 消火器 | ・延べ面積150㎡以上のもの、 ・地階・無窓階・3階以上の階 で床面積が50㎡以上のもの | ・延べ面積150㎡以上のもの、 ・地階・無窓階・3階以上の階 で床面積が50㎡以上のもの | 1.延べ面積150㎡以上のもの、 2.地階・無窓階・3階以上の階 で床面積が50㎡以上のもの | |
| 自動火災報知設備 | 主に延べ面積が500㎡以上のもの | すべてのもの | 1.延べ面積が300㎡未満のもの(宿泊施設部分のみ)2.延べ面積300㎡以上のもの(宿泊施設部分 が全体の10%以下の場合はその部分 のみ)など | |
| 住宅用火災警報器 | 寝室などに設置 | 自動火災報知設備がない場合のみ | 自動火災報知設備がない場合のみ | |
| 誘導灯 | 地階及び無窓階または11階以上の階 | すべてのもの | すべてのもの | |
| スプリンクラー設備 | 11階以上の階 | ・11階以上のもの・延べ面積が6,000㎡以上のものなど | ・11階以上のもの・宿泊施設の部分が3,000㎡以上のもの など | |
| 消防用設備等の点検報告 | 点検:年2回報告:年3回 | 点検:年2回報告:年1回 | 点検:年2回報告:年1回 | |
| 防火管理 | 建築物全体の収容人数が50人以上のもの | 建築物全体の収容人数が30人以上のもの | 建築物全体の収容人数が30人以上のもの | |
| 防災物品の使用 | 高さが31mを超える場合 | すべてのもの | ・高さが31mを超えるもの・宿泊施設部分 |
出典:民泊において消防法令上求められる対応等に係るリーフレット(総務省消防庁)
民泊を始めるための流れと必要な手続き

民泊経営を始めるには、上記で紹介した、複数の法律による規定をクリアする必要があります。そこでここでは、物件の選定からオープンまでに必要な手続きを、ステップごとに詳しく解説していきます。
- 1.立地と建築物の条件から物件を探す
- 2.事業計画の作成
- 3.居住要件と設備要件のチェック
- 4.消防や関係機関との協議
- 5.住宅宿泊事業届出書の提出
- 6.ウェブに掲載して周知
- 7.営業開始
1.立地と建物の条件から物件を探す
まずは都市計画法の用途地域と、建築基準法の建築物の用途から、民泊を運営できる物件かを確認しましょう。この条件が整わないと、そもそも民泊ができません。
これらの条件がクリアできたら、次に収益を確保するために、民泊のニーズがありそうかをチェックしましょう。また、可能であれば周囲の競合施設の有無もチェックしておきましょう。駅や観光地に近い物件は集客に有利ですが、その分競合も増えるため価格設定や差別化が必要になってきます。
また、住宅街にある物件は静かな環境を好むゲストに向いていますが、騒音やゴミ出しをめぐって近隣住民と摩擦が生じる可能性もあります。周辺環境を調査し、ターゲットとするゲスト層に合っているかを見極めることが大切です。
2.事業計画書の作成
まずは民泊事業の内容を明確にするために事業計画書を作成しましょう。事業計画書がしっかりできていれば、関係機関との協議がスムーズに進みますし、運営の目的や目標、主なターゲット層、必要な費用などが具体化されます。
さらに、余裕があれば、予約サイトやSNSでどのように集客するかといったマーケティング戦略も盛り込みましょう。数字と行動計画を結びつけることで、実行力のある計画に仕上がります。
3.居住要件と設備要件のチェック
民泊に利用する物件が絞り込めたら、次に居住要件と設備要件を満たしているか確認します。
まず、居住要件は以下のいずれかに該当する必要があります。
- 1.現に人の生活の本拠として使用されている家屋
- 2.入居者の募集が行われている家屋
- 3.随時その所有者、賃借人又は転借人の居住の用に供されている家屋(※)
民泊を目的として新築や購入した住宅は、原則として住宅宿泊事業法の『住宅』要件を満たさないため対象外です。あくまで「住宅」として利用されている、または利用する予定があるものを、一時的に民泊に活用するのが基本です。
※:生活の本拠としては使用されていないものの、その所有者等により随時居住利用されている家屋。その所有者等が使用の権限を有しており、少なくとも年1回以上は使用していること
次に設備要件として、以下の条件に該当する必要があります。
- 台所、浴室、便所、洗面設備が設置されていること
4.関係機関との協議
法律に基づく決まりに関することは、届出を提出する前に、あらかじめ所管する機関と協議をしておきましょう。
特に、火災報知器や消火器の設置、避難経路の確保といった消防関係の協議は念入りに行い、届出提出後に修正がないように進めましょう。消防設備は1つあたりの施工費が高くなりがちなので、あとから追加対応が必要になると、思った以上の費用負担になる恐れがあります。
5.住宅宿泊事業届出書の提出
次に、民泊事業を始める旨を説明した「住宅宿泊事業届出書」を作成し、各都道府県の知事に提出します。提出は国土交通省が運営している「民泊制度運用システム」を通じてオンラインで行います。
6.ウェブに掲載して周知
届出が受理されたら、宿泊予約サイトやSNSに物件情報を掲載し、ゲストに周知しましょう。写真は清潔感や広さが伝わるものを選び、施設情報は正確に記載することが大切です。
また、周辺観光地やアクセス方法も一緒に紹介すれば、ゲストの安心感や期待感を高められます。第一印象で予約率が変わるため、この段階の工夫が収益に直結します。
7.営業開始
ここまでの手続きを終えると、いよいよ営業開始です。最初は予約や問い合わせへの対応に慣れるまで手間取るかもしれませんが、丁寧な対応が高評価につながり、リピーターの獲得に結びつきます。
また、開業直後は設備やオペレーションに不備が見つかることも多いため、ゲストの声を取り入れながら改善を重ね、安定した運営を目指しましょう。
民泊経営にかかる費用

民泊の経営にかかる費用は大きく「初期投資」と運営中にかかる「ランニングコスト」の2種類に分けられます。それぞれの主な項目は以下のとおりです。
初期費用
- 物件の取得費
- 登記費用
- 申請手続き費用
- リフォーム・リノベーション費用
ランニングコスト
- 維持管理費
- 各種消耗品費
- 各種税金
民泊施設にどれほど費用をかけるかは、民泊を行うスタンスによって大きく変わってきます。所有している住宅を使用して副業のように行うのであれば、初期費用は部分的なリフォーム程度に抑えて、続けやすさを優先することが考えられますし、しっかり事業として行いたいのであれば、銀行から融資を受けて行う選択肢もあるでしょう。
もし、後者のように収益にこだわるのであれば「アキサポ」のような空き家の専門家を頼るのがおすすめです。空き家の専門知識を持っている会社は多くはないため、最初にどんな専門家を味方に付けるかで、その後の成果が大きく変わってきます。
民泊経営で成功するための6つのポイント
民泊は開業して終わりではなく、その後、いかにゲストの満足度を高く維持できるかがポイントになります。最近は民泊施設も口コミサイトに掲載される時代なので、継続的な努力が欠かせません。
特に注力すべきこととして、以下のような点が挙げられます。
- 宿泊予約サイト・SNSを使って宣伝をする
- 外国人対応に力を入れる
- リピーターを増やすための施策を練る
- 法令を遵守する
- 清掃や修繕をこまめに行う
- 事前に近隣住民への説明をしておく
簡単に説明すると、広告で広く認知を得ながら、物件の状態を健全に保って地盤を固めるというイメージです。民泊を単なる「家の間貸し」ではなく、「宿泊施設」を運営するという意識で取り組むことが、成功へのカギとなります。
まとめ:民泊経営で成果を上げるために押さえておきたいポイント
民泊経営は、空き家や空き部屋を活用できる魅力的なビジネスですが、その成功には「法令順守」と「ゲスト満足度向上」の両立が欠かせません。特に、届出や消防設備の整備といった初期対応を怠ると、後々大きなリスクにつながり、継続が困難になる恐れがあります。
民泊を始めるなら、まずはこれらの土台をしっかり作ることが大切です。そのうえで、魅力的な施策を打ち出し、多くの人たちに愛される「人と人を繋ぐ場所」を創り上げていきましょう。
民泊経営に関するご相談は、空き家活用の専門家である「アキサポ」にお任せください。物件の選定から運営、長期的な収益改善まで、お客様に最適なプランをご提案します。
この記事の監修者
岡崎 千尋 アキサポ 空き家プランナー
宅建士/二級建築士
都市計画コンサルタントとしてまちづくりを経験後、アキサポでは不動産の活用から売買まで幅広く担当してきました。
お客様のお悩みに寄り添い、所有者様・入居者様・地域の皆様にとって「三方良し」となる解決策を追及いたします。