公開日:2026.11.07
NEW相続登記前に不動産を売却できる?結論と進め方

相続登記前でも不動産の売買契約を結ぶことは可能ですが、原則として買主への所有権移転登記までに相続登記を済ませる必要があります。
この記事では、相続登記前に売却するための条件や手続きの流れ、相続人間のトラブルを防ぐ注意点、売却にかかる税金や特例について解説。
「親の名義のまま売りに出せる?」「遺産分割協議が終わっていないけれど現金化したい」といった切実な悩みを抱える方向けに、注意点や最短で売却する手順を詳しくまとめました。
目次
相続登記前の売却が原則難しい理由

相続が発生すると、不動産の権利は相続人に引き継がれます。しかし、登記簿が故人名義のままだと、買主や不動産会社は売主の権利関係を正確に把握できません。
不動産売却では、原則として「故人から相続人へ」「相続人から買主へ」という順番で登記を進める必要があります。所有者のバトンタッチを登記簿にも反映させるイメージです。
そのため、相続人が確定していなかったり、遺産分割協議がまとまっていなかったりすると、必要な登記手続きを進められず、売却が滞るおそれがあるというわけです。
亡くなった人の名義のまま売れないケース
法律上、他人の権利を目的とする売買契約も有効に成立するため(民法第561条 他人物売買)、相続登記前でも契約自体は締結可能です。ただし、登記実務では物権変動の過程を忠実に反映する原則があるため、被相続人から買主へ直接名義を移す「中間省略登記」は原則として認められません。
特に買主が住宅ローンを利用する場合、金融機関は売主の所有権や不動産の名義を慎重に審査します。相続登記が済んでいない場合、融資や決済の段階で手続きが止まってしまうことがあります。
また、相続人が確定していない、相続人全員の合意が得られていないといったケースも要注意。後から権利をめぐるトラブルに発展するおそれがあるため、不動産会社から遺産分割協議や相続登記を先に済ませるよう求められることがあります。
相続登記義務化(2024年4月)と売却への影響
2024年4月1日より相続登記の申請が法的に義務化されました。「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権を取得したことを知った日」から3年以内に申請が必要です。
また、遺産分割が成立した場合はその日から3年以内に遺産分割に伴う登記を申請しなければなりません。正当な理由なく放置すると、10万円以下の過料に処される可能性があります。なお、2026年4月1日からは「住所や氏名の変更登記」の義務化も施行されました(変更が生じた日から2年以内の申請が必要)。
相続登記前に売却できるケース|相続人全員の合意があるとき

相続登記が終わっていなくても、相続人全員が売却に合意し、権利関係が整理されていれば、不動産売却の準備や売買契約を進められる場合があります。
たとえば、遺産分割協議で不動産を引き継ぐ人を決め、相続登記と買主探しを同時並行で進める方法です。決済までに必要な登記手続きを整えられれば、相続登記の完了を待ってから売却活動を始めるよりも、早期の現金化を目指せます。
ここで気をつけたいのが、売却への合意だけでは十分ではないという点。売却価格や時期、売却代金の分け方などについても、相続人同士で認識をそろえておく必要があります。
特に遺産分割が終わっていない場合は、売却代金の扱いや、他の相続人の同意を得ずに手続きを進めることによるトラブルに注意が必要です。
遺産分割前に売却した不動産と売却代金の扱い
遺産分割前に不動産を売却した場合、売却によって不動産の所有権は買主へ移ります。ただし、売却代金を相続人同士でどう分けるかは、事前の合意内容などによって異なります。
売却代金を均等に分けるのか。あるいは相続割合に応じて分配するのかなど、仲介手数料や登記費用などを誰が負担するかも含め、具体的に決めておきたいところです。
後から「聞いていた金額と違う」とならないよう、合意内容は書面に残しておきましょう。
同意なく売却した場合のリスク
遺産分割前の不動産は、原則として相続人全員の共有状態にあります。不動産全体を売却するには共有者全員の同意が必要なため、一人の判断で売買契約を進めても、予定どおりに引き渡せないおそれがあります。買主への所有権移転登記ができなければ、契約解除や損害賠償を求められる可能性も。
なお、自分の共有持分(権利の割合)だけであれば、他の相続人の同意を得ずに売却可能です。ただし、第三者が共有者になるとトラブルの原因となり、買い叩かれやすいため注意が必要です。
相続と同時に売却するか、相続登記後に売却するか
相続した不動産を売却する方法は大きく分けて2パターン。「相続登記と売却を同時並行で進める」または「相続登記を終えてから売却する」です。
両者はどちらが正解というよりも、相続人の人数や遺産分割協議の進み具合によっても、適した方法は変わってきます。
2つの売却パターンの違い
それぞれの特徴を比較してみましょう。
| 比較項目 | 相続登記と売却を同時並行 | 相続登記完了後に売却 |
|---|---|---|
| 進め方 | 売却活動(買主探し)と登記準備を同時に進行 | 遺産分割・登記完了後に売却活動を開始 |
| 売却までの期間 | 最短で現金化可能 | 登記完了を待つため期間が長くなりやすい |
| 主なメリット | 早期売却・維持費(固定資産税等)の削減 | 権利関係が確定しているためトラブルが少ない |
| 注意点・リスク | 決済日までに登記書類を完璧に揃える必要がある | 売り出しまでに時間がかかり売買機会を逃すリスク |
同時並行で進める場合は、売買契約を結ぶ前に、相続登記に必要な書類や手続きの見通しを立てておきましょう。特に、決済日までに登記を進められるかどうかが判断のポイントです。
相続登記後に売却する場合も、登記の完了を待つ間に不動産会社への査定依頼や売却価格の検討を進めておけば、その後の売却活動にスムーズにつなげられます。
どちらを選ぶかの判断ポイント
判断の目安となるのは、売却を急ぐ理由と、相続人同士の話し合いがどこまで進んでいるかです。
<例>
- 相続人全員が売却に合意し、必要書類もそろっている場合
→ 相続登記と売却を同時並行で進める方法がおすすめ
相続人間の調整が済んでいれば、登記の準備と買主探しを並行でき、早期売却につながる可能性があります。
<例>
- 相続人が多い・遠方に住んでいる・意見がまとまらない場合
→ 相続登記を先に済ませてから売却する方法がおすすめ
まずは遺産分割協議で権利関係を整理し、相続人の合意を得ることから。売却を急がず、登記を完了させてから進める方がトラブルを防ぎやすいでしょう。
なお、相続登記を放置中に一部の相続人の債権者から持分を差し押さえられると、売却が極めて困難になります。
買主や不動産会社によっては、相続登記の完了を売買契約の条件とすることも。自分たちの都合だけで決めず、司法書士や不動産会社と相談しながら、無理のないスケジュールを組むことが大切です。
相続登記前に売却まで進める手順
必要な準備を整えれば、相続登記前でも不動産の売却活動を始められます。相続登記と売却を同時並行で進める場合の基本的な流れは、次の5ステップです。
それぞれの手順と注意点を見ていきましょう。
相続人確定と遺言書の確認
最初に行うのは、亡くなった方(被相続人)の戸籍を集め、誰が相続人になるのかを調べることです。一般的には、出生から死亡までの戸籍謄本などをたどり、相続関係を整理します。
あわせて、遺言書が残されていないかも調べましょう。遺言書の内容によっては、不動産を引き継ぐ人や遺産分割の進め方が変わります。自筆証書遺言の場合、保管方法によっては家庭裁判所での検認が必要になるため、早めに調べておくとスムーズです。
さらに、不動産の登記事項証明書を取得し、現在の名義や抵当権の有無、土地の地番なども調べておきます。思いがけず別の名義が残っているケースもあるため、売却対象となる不動産を正確に把握しておきましょう。
遺産分割協議と売却の合意書作成
遺言書などで取得者が決まっていない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が不動産を引き継ぐのかを決めます。
ここで重要なのは、売却代金の分け方や諸費用の負担についても話し合っておくことです。仲介手数料や登記費用を誰が立て替えるのか、売却代金からどの費用を差し引いて分配するのか、曖昧にせず具体的に決めることがポイントです。
合意内容は遺産分割協議書に残します。協議書による相続登記には、相続人全員の実印による押印と印鑑証明書が必要です。
代表者の選定と売却手続きの委任
相続人が複数いる場合は、不動産会社との連絡や内覧対応などを担う代表者を決めておくと安心です。窓口を一本化することで、情報の行き違いや手続きの遅れを防ぎやすくなります。
ただし、代表者を決めても、他の相続人の同意なく売却を進められるわけではありません。媒介契約の締結や価格交渉、売買契約の署名などを任せる場合は、委任状を作成し、代理できる範囲を明確にしておきましょう。
たとえば、買主から値下げを求められた場合に、代表者だけで判断してよいのか、相続人全員で相談するのか。こうしたルールを事前に決めておけば、売却途中のトラブルを防ぎやすくなります。
相続登記(共有名義か代表者単独名義か)
相続登記では、相続人のうち一人の単独名義にするか、複数人の共有名義にするかを、遺言書や遺産分割協議の内容に沿って決めます。
それぞれの特徴は次のとおりです。
| 登記方法 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 単独名義 | 売主が一人となり、売却手続きを進めやすい | 売却代金の分配や費用精算を明確にする必要がある |
| 共有名義 | 各相続人の持分を登記に反映できる | 不動産全体の売却には原則として共有者全員の同意が必要 |
共有名義では、売却にあたって全員の意思確認や契約・決済の日程調整が必要になるため、相続人が多いほど手続きに時間がかかることもあります。
換価分割のために便宜上「代表者1人の単独名義」にして売却する場合、遺産分割協議書に「換価分割のために便宜単独名義とする旨」および「売却代金をどのように分配するか」を明記しなければなりません。この記載を怠ると、代表者から他の相続人への代金分配が「贈与」とみなされ、思わぬ贈与税が課される危険性があります。司法書士や税理士に相談しながら、自分たちに合った登記方法を選びましょう。
売買契約・決済と売却代金の分配
買主が決まったら、売買契約を締結します。相続登記が未了の場合は、決済までに登記を整えることや、手続きが間に合わなかった場合の対応を契約書で明確にしておきましょう。
決済では、買主から売却代金を受け取り、鍵の引渡しや固定資産税などの精算を行います。相続登記と買主への所有権移転登記を同日に連続して申請するケースもあるため、司法書士と事前に段取りを組んでおきます。
売却代金を受け取った後は、事前に決めたルールに沿って各相続人へ分配します。代表者が売却代金をまとめて受け取る場合は、仲介手数料や登記費用などを差し引いた金額、分配日、振込先を書面で共有しておきましょう。譲渡所得税などの納税資金もあらかじめ見込んでおくことで、後々の費用負担をめぐるトラブル防止につながります。
相続不動産売却の税金と節税ポイント

相続した不動産を売却して利益が出た場合、譲渡所得税などがかかります。売却価格のすべてに税金がかかるわけではなく、購入時の費用(取得費)や売却にかかった費用を差し引いた「譲渡所得」が課税の対象になります。
ここで気をつけたいのが、取得費の扱いです。相続不動産では、原則として亡くなった方の取得費や取得時期を引き継ぐため、購入当時の資料が見つからない場合は税負担が増えることもあります。
条件を満たせば税負担を軽減できる特例もあります。売却後に「思ったより手元に残らなかった」とならないよう、利用できる制度を事前に調べておきましょう。
譲渡所得税の申告と特例の検討
譲渡所得は、次の計算式で求められます。
譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用)
取得費には購入代金など、譲渡費用には仲介手数料や売却のために直接かかった測量費、一定の解体費用などが含まれます。購入時の契約書や領収書は、税金を計算する際の資料として保管しておきましょう。
相続不動産の売却では、次のような特例を利用できる可能性があります。
- 相続空き家の3,000万円特別控除(被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例)
昭和56年5月31日以前に建築された親の居住用家屋(戸建て等)を相続し、耐震リフォームや更地化(取壊し)をして売却、または売買契約後に買主が翌年2月15日までに耐震改修・除却工事を行う場合に、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例。なお、相続人が3人以上で分割取得・売却した場合は控除限度額が1人あたり2,000万円(最大計6,000万円等)に圧縮される制限が設けられています。また、本特例の適用期限は2027年(令和9年)12月31日までです。 - 取得費加算の特例
相続税を実際に納めた人が、相続開始の翌日から「3年10か月以内」にその不動産を売却した場合、納めた相続税の一部を取得費(経費)に加算して税金を安くできる特例。
ただし、特例には適用期限や細かな条件があり、原則として両制度の併用はできません。
譲渡所得が生じた場合は、原則として売却した翌年に確定申告が必要です。特例を利用する場合も申告が必要になるため、売却前から税理士などに相談し、適用条件や必要書類を整理しておくとよいでしょう。
共有持分だけを売却する場合の注意点
相続した不動産が共有名義になっている場合、自分の持分だけを売却することも可能です。ただし、買主が不動産を自由に利用・処分できないため、購入希望者が限られる傾向があります。
たとえば、土地の持分を半分取得しても、土地の半分を自由に使えるわけではありません。建物を建てたり、土地全体を売却したりするには、他の共有者との話し合いや同意が必要になる場合があります。
第三者(買取専門業者など)が共有持分を取得すると、他の共有者に対して民法に基づく「共有物分割請求訴訟」を起こすのが通例です。裁判所の競売命令(形式的競売)が出た場合、不動産全体が相場より大幅に安値で競売にかけられ、先祖代々の土地を失ってしまうリスクがあります。
こうした制約やリスクから、持分だけの売却は価格が低くなりやすい点にも注意が必要です。相続人同士で合意できない場合も、すぐに持分売却を選ぶのではなく、弁護士などの専門家に相談しながら解決方法を検討しましょう。
相続登記前の売却をスムーズにする依頼先の選び方

相続登記前に不動産の売却を進めるなら、相続手続きと売却活動の両方に対応できる依頼先を選ぶことがポイントです。
また、早く現金化したい場合は、仲介だけでなく買取も選択肢のひとつ。希望の売却価格や時期に合わせて、依頼先を比較してみましょう。
司法書士・不動産会社の連携体制を確認する
司法書士は相続登記、不動産会社は査定や買主探し、売買契約などを主に担当します。
相続登記と売却を同時並行で進める場合、両者の連携が取れていないと、必要書類がそろわず決済が遅れる可能性も。特に、相続登記から買主への所有権移転登記までの段取りを、事前に確認しておきたいところです。
依頼先を選ぶ際は、次の点をチェックしましょう。
- 相続不動産の売却実績があるか
- 司法書士と連携し、登記から決済までのスケジュールを組めるか
- 必要書類や費用、手続きの流れをわかりやすく説明してくれるか
- 相続人が複数いる場合の連絡調整にも対応できるか
相続人同士で意見が分かれている場合は、不動産会社や司法書士だけで解決できないこともあります。その際は、弁護士への相談も検討しましょう。
早期現金化なら買取も検討する
相続した不動産をできるだけ早く売りたいなら、不動産会社による「買取」も検討してみましょう。
一般的な仲介では不動産会社が買主を探すため、希望に近い価格で売却できる可能性があります。その反面、買主が見つかるまでの期間は読みにくく、内覧対応や価格交渉が必要になることがあります。
買取のメリットは、不動産会社が直接買い取るため、買主探しの時間を省けることです。売却価格は仲介より低くなる傾向があるものの、早期の現金化を目指しやすくなります。
築年数が古い、残置物が多いといった物件でも、状態によっては現状のまま買い取ってもらえるケースがあります。
なお、買取を選んでも相続登記が不要になるわけではありません。相続登記の手続きや残置物の処分も含めて相談できるか確認し、売却価格だけでなく、費用や売却までの期間を比較して判断しましょう。
登記前でも査定や売却活動の準備は始められます。ただし、売買契約の締結や買主への引き渡し(決済)までに、相続人全員の同意と登記申請の準備を完了させておく必要があります。
故人から買主へ直接名義変更することはできないため、司法書士が「亡くなった方→相続人」の相続登記と「相続人→買主」の所有権移転登記をまとめて法務局へ申請します。
持分のみの売却は市場価格より大幅に安くなる傾向があります。全体での売却を目指す場合は、司法書士や弁護士などの専門家を交えて調整を図りましょう。
まとめ|相続登記前の売却は合意形成と事前準備がポイント
相続登記前でも不動産の売買契約を結ぶことは可能です。ただし、原則として買主への所有権移転登記までに相続登記を済ませる必要があります。
早期売却を目指すなら、まずは相続人や遺言書の有無を確認することから。売却方針や代金の分け方について相続人同士で話し合い、必要書類も早めにそろえておきましょう。
「できるだけ早く売りたい」「相続人が多くて手続きが不安」という場合は、司法書士や不動産会社を頼るのもおすすめです。
税金や名義の問題も含めて一つずつ整理し、納得のいく不動産売却につなげていきましょう。
この記事の監修者
白崎 達也 アキサポ 空き家プランナー
一級建築士
中古住宅や使われなくなった建物の再活用に、20年以上携わってきました。
空き家には、建物や不動産の問題だけでなく、心の整理が難しいことも多くあります。あなたが前向きな一歩を踏み出せるよう、心を込めてサポートいたします。






