公開日:2025.10.02 更新日:2025.09.26
不動産売買契約書とは?基本の記載事項から注意点まで解説

高額な取引となる不動産の売買は、売主と買主の認識をすり合わせることが不可欠です。その際に重要な役割を担うのが、不動産売買契約書です。物件情報や売買代金、引き渡し条件などを具体的に記載することで、将来的なトラブルを防ぐための土台となります。この記事では、契約書の必須項目や作成時の注意点、特殊なケースへの対応方法まで詳しく解説します。
目次
不動産売買契約書の必須項目と注意点

不動産売買契約書は、高額な資産を取引するうえで不可欠な書類です。売主と買主の合意事項を明確にし、取引後の認識違いやトラブルを未然に防ぐことができます。
記載内容の正確性は、契約の効力や安全性に大きく影響するため、各項目を慎重に確認することが重要です。ここでは、契約書に盛り込むべき主な項目と注意点を整理します。
当事者情報(売主・買主)
まず明記すべきは、売主・買主の正確な氏名・住所です。誤記や不備があれば契約の有効性に影響し、将来の法的トラブルの火種となりかねません。
契約の目的(利用用途など)は、必須項目ではありませんが、不動産取引の重要なポイントである住宅ローン特約や税制優遇措置に関わります。契約前の確認を怠らないようにしましょう。
物件特定情報(所在地・地積・建物面積)
対象物件を特定するため、所在地や登記簿上の面積(地積)、建物の床面積を正確に記載します。登記簿や測量図、管理組合からの資料を照合し、記載漏れや数値の誤りがないか確認しましょう。
マンションの場合は専有部分の面積だけでなく、バルコニーや専用庭、トランクルームなど附属施設も明記すると安心です。
売買代金と支払い条件
売買代金は金額だけでなく、支払い時期や方法も具体的に定めます。一般的には手付金、残代金、仲介手数料の支払いがあり、ローン特約を付ける場合は融資実行日や残代金決済日も記載が必要です。
さらに、公租公課や都市計画税の精算条件を事前に決めておくことで、引き渡し後の費用負担トラブルを回避できます。
引き渡し日・所有権移転日の設定
引き渡し日と所有権移転日は、取引スケジュールの要です。多くの場合、残代金決済日に引き渡しと所有権移転登記を同時に行います。
引き渡し前に物件が損傷した場合の責任や、登記費用の負担者も契約書で合意しておくことで、スムーズかつ安全な取引が可能になります。
契約不適合責任と瑕疵担保責任の違い
2020年4月の民法改正により導入された契約不適合責任では、物件が契約内容に適合しない場合、買主が追完請求(補修・代替物の引渡し・不足分の引渡し)・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除を請求できる場合があります。
契約書には、売主が負う責任範囲や責任期間(多くは引き渡しから2〜3カ月とする特約が付されるが、法律上は1年以上に延長することも可能)、修補義務の内容などを明記し、不動産会社が仲介する場合はその関与範囲も記載します。特に中古物件では不具合が生じやすく、事前の取り決めがトラブル回避に繋がるでしょう。
公簿売買と実測売買の違い

不動産取引では、土地の面積をどの基準で契約するかによって、取引の進め方やリスクが変わります。特に「公簿売買」と「実測売買」では、契約書の記載方法や引き渡し後のトラブル発生率に差が出ることもあります。
それぞれの特徴やメリット・デメリットを理解しておくことが、後悔のない契約を実現するための大切なステップとなるでしょう。
公簿売買の特徴とメリット・デメリット
公簿売買は、登記簿に記載された地積(面積)をそのまま契約の基準とする方法。
測量を省略できるため、売買を比較的短期間で進められるほか、売主側は実測によって面積が減るリスクから免れやすいという利点があります。買主にとっては、登記簿面積が実測より小さい場合、想定以上の土地を取得できる可能性もあります。
しかし、登記簿上の情報が古く、実際の面積との差が大きい場合は注意が必要です。境界が曖昧なまま契約すると、引き渡し後に隣接地との境界をめぐり筆界特定や境界確定訴訟に至る恐れがあります。その結果、建築や転売などの計画が遅れるリスクもあり、事前の確認と合意形成が欠かせません。
実測売買の特徴とメリット・デメリット
実測売買は、専門家による現地測量で得られた正確な面積を契約の基準とする方法です。面積の不一致や境界をめぐる争いを事前に防ぎやすく、買主は取得する土地の正確な広さを把握できるため、将来の利用計画を立てやすくなります。
一方で、測量には費用と時間がかかるため、契約締結までのスケジュールが延びる可能性があります。測量結果が契約予定日までに間に合わない場合は日程調整が必要となり、売主・買主双方にとって負担が増えることもあります。費用負担や実施時期について事前に取り決めておくことが、スムーズな取引の鍵となるでしょう。
マンション・区分所有建物売買契約の注意点

マンションや区分所有建物の売買は、土地付き一戸建てと異なり、敷地や共用部分に関する特有のルールや契約条件があります。敷地権の形態や管理規約、共用部分の利用条件を十分に理解しないまま契約すると、入居後に思わぬ制約や費用負担が発生してしまうケースも。
ここからは、契約書に盛り込む際に注意すべき主なポイントを整理します。
敷地権所有権と賃借権の違い
区分所有建物の敷地権には「所有権」と「借地権」があります。所有権の場合、将来的な資産価値が比較的安定しやすく、売却や賃貸もスムーズに進めやすい傾向があります。
一方で借地権では、地代の支払いや契約更新条件が発生し、売却時や賃貸時に制限を受ける可能性があります。さらに、更新手続きや更新料の負担が必要となるほか、残存契約期間が短い場合には買主の住宅ローン審査に影響することも。
いずれの形態であっても、敷地権の詳細は契約書に明記し、買主が十分に理解したうえで契約を進めることが、後々のトラブル防止につながります。
管理規約や共有部分の確認
マンションの共用部分には、廊下やエントランス、エレベーターなど多くの施設が含まれます。これらは管理組合が定める管理規約や使用細則に基づき運営され、費用負担の割合やルールが決められています。買主は管理費や修繕積立金の金額、将来の値上げ予定を確認し、長期的な支出計画を立てることが大切です。
また、駐車場や駐輪場の空き状況、利用制限、ペット飼育やリフォーム可否などの条件も事前に把握しておく必要があります。これらを契約前に確認しておかないと、入居後に理想の暮らしが制限される可能性があるため、共有部分と規約の精査は欠かせません。
建築不可土地・業務委託型売買の特殊性

不動産取引の中には、一般的な売買とは異なる条件や制約が伴うケースがあります。代表例が、法律上の理由で建物を建てられない「建築不可土地」と、売買契約に加えて関連業務を一括して委託する「業務委託型売買契約」です。
いずれも契約内容や条件の確認を怠ると、購入後に予期せぬ制限や費用負担が生じる可能性があります。それぞれの特徴と注意点を解説していきます。
建築不可土地のリスクと注意点
都市計画法や建築基準法上の制限、隣地との接道義務を満たさないなどの理由により、建築不可とされる土地は少なくありません。このような土地は、将来的な活用や資産価値の向上が難しく、購入後に使い道に悩むケースも多いのが実情です。
建築可否は登記簿だけでは判断できないため、役所での制度確認や現地調査を行うことが重要です。契約時には「建築不可」である旨や契約解除条件を明記し、活用できないリスクや後のトラブルを未然に防ぎましょう。
業務委託型売買契約のポイント
業務委託型売買契約とは、土地や建物の売買に加え、リフォーム・造成・開発などの業務も合わせて委託する契約形態です。従来の売買契約に比べて取り決めるべき項目が多く、費用負担の範囲や業務完了の期限、成果物の品質基準などを明確に定める必要があります。
責任範囲があいまいなままでは、追加費用や工期遅延をめぐる争いに発展しかねません。契約書作成時には、専門家の確認を受け、必要に応じて追加条項を盛り込み、合意内容を詳細に記録しておくことが求められます。
不動産売買契約書のひな形を利用するメリットと注意点

不動産売買契約書の作成では、一から文章を作り上げるよりも、既存の「ひな形」を活用することで作業効率や漏れ防止に役立ちます。
ただし、ひな形はあくまで基本形であり、すべての物件や契約条件に適合するわけではありません。メリットを享受しつつも、自分の取引内容に合わせた修正や追加条項をする必要があるでしょう。ここでは、ひな形を活用するメリットと利用時の注意点を解説していきます。
ひな形を使うメリットと注意点
ひな形は、あらかじめ定型的な条項が盛り込まれているため、契約書作成の手間を大幅に削減できます。チェックリストとして活用することで、重要項目の記載漏れを防ぎやすく、当事者間の内容確認もスムーズに。文章構成が体系的に整理されている点も魅力といえます。
しかし、特殊な用途地域や既存不適格物件の売買など、一般的な契約条件では対応しきれないケースもあります。この場合は、ひな形を基にした修正や追加条項の作成が必要です。内容を取引実態に合わせて調整することで、契約後の想定外のトラブルを抑止できるでしょう。
公的機関や専門家が提供する書式の確認
不動産業界団体や自治体などの公的機関が提供する書式は、法改正や最新の規定に沿って作成されており、信頼性が高いのが特徴です。こうした書式を活用すれば、法的要件を漏れなく盛り込みやすくなります。
また、税理士や弁護士などの専門家が監修した書式では、税務上の特例や契約不適合責任といった細かな論点まで反映されています。契約の安全性を高めるためにも、必ず信頼できる機関や専門家が作成した書式を基盤に、自分の取引内容に即した契約書を整備することが重要です。
不動産売買契約書の印紙税と印紙税の軽減措置

不動産売買契約書には、契約金額に応じて印紙税が課されます。取引額が大きいほど税負担も増えるため、金額区分や税額表を正しく理解することが重要です。
また、一定の条件を満たせば軽減措置の適用が可能な場合もあります。ここでは、課税体系の基本と軽減措置のポイントを解説します。
課税体系と軽減措置の適用条件
印紙税は契約書面に記載された契約金額に応じて段階的に税額が設定されており、例えば「5,000万円超〜1億円以下」といった区分ごとに金額が決まります。不動産売買契約書に記載する契約金額によって、税額が大きく変動するため、取引前に確認しておくことが大切です。
印紙税の軽減措置を受けるには、2024年4月1日時点において、令和6年3月31日までに作成された契約書に適用されていた軽減措置が、現在も適用期間を延長されていることなど、複数の条件を満たす必要があります。最新の適用期間については、国税庁のウェブサイトなどで必ず確認するようにしましょう。
照会要旨・回答要旨・関係法令通達のポイント
印紙税や軽減措置の詳細は、国税庁や税務署が公表する「照会要旨」「回答要旨」「関係法令通達」などに明示されています。特に法改正や新しい軽減措置が導入された際は、最新情報を必ず確認することをおすすめします。
実務で判断が難しい場合は、税務署や税理士など専門家へ相談するのが安心です。適用可能な軽減措置を確実に把握することで、不要な税負担を避けることができるでしょう。
トラブル事例と弁護士への相談

不動産取引では、契約書の不備や認識のずれから思わぬトラブルに発展することがあります。違約金や契約解除の条件、境界問題などは、特に争いになりやすい項目です。
万一の事態に備えるには、契約段階での明確な取り決めと、問題発生時の迅速な専門家相談が重要です。ここでは代表的なトラブル例と弁護士へ相談する意義に触れていきます。
違約金・契約解除・境界問題の具体例
違約金をめぐる典型的なトラブルには、買主のローン特約不成立や、売主による所有権移転登記拒否などがあります。契約書に違約金や契約解除の条件・金額が明記されていない場合、違約金の請求や契約解除の可否をめぐって紛争に発展するリスクが高まります。
さらに、土地の境界問題は隣接地の所有者を含めた立ち会い確認が必要で、手続きを怠ると囲障や越境といったトラブルの原因になります。 こうした事態に直面した場合は、まず事実関係を整理し、契約書の記載内容を確認することが重要です。境界確定書や売買契約書などの証拠となる資料の保全を怠らないようにしましょう。
弁護士に依頼するメリット・費用相場
弁護士に依頼する最大の利点は、法的根拠に基づき迅速かつ適切な解決策を提示してもらえること。不動産取引でのトラブルが深刻化した場合、法的な手続きを視野に入れた対応が必要となり、専門家の関与が解決への近道になるでしょう。また、交渉時に弁護士が代理人として加わることで、感情的な対立が和らぎやすいというメリットもあります。
費用は案件の難易度や請求額によって異なり、着手金・報酬金・実費などを含め、数十万円から百万円単位に及ぶこともあります。依頼前には複数の弁護士や法律事務所に相談し、見積もりや対応方針を比較したうえで、自身の状況に合った専門家を選ぶことが大切です。
不動産売買契約書で安心できる取引を

不動産売買契約書は、売主と買主が合意した条件や権利義務を正確に記録し、取引の安全性と信頼性を守るための不可欠な書類です。記載すべき内容は、物件の種類や契約形態、条件によって異なります。そのため、既存のひな形をそのまま使うのではなく、取引の実情に即して調整することが求められます。
特に、公簿売買や実測売買の選択、区分所有権付きマンションの契約、建築不可土地や業務委託型売買など、特殊なケースでは条項の追加や修正が不可欠。加えて、印紙税や法改正による軽減措置、違約金や境界問題などトラブル時の対応策も事前に盛り込み、将来のトラブル発生リスクを避けることが大切です。専門家の助言も受けながら、安心・安全な取引を実現しましょう。
不動産の不安や疑問は「アキサポ」へご相談
条件交渉や契約書の作成、特殊な物件への対応など、不動産取引には専門知識が求められる場面が少なくありません。そんなときは、空き家活用の専門サービス「アキサポ」にぜひご相談ください。経験豊富なスタッフが状況に合わせた提案と手続きをサポートします。
この記事の監修者
山下 航平 アキサポ 空き家プランナー
宅建士/二級建築士
ハウスメーカーにて戸建住宅の新築やリフォームの営業・施工管理を経験後、アキサポでは不動産の売買や空き家再生事業を担当してきました。
現在は、地方の空き家問題という社会課題の解決に向けて、日々尽力しております。