公開日:2020.07.14 更新日:2026.10.05
相続した空き家は相続放棄すべき?判断の基準と手放す選択肢

相続放棄とは、被相続人のプラスの財産もマイナスの負債も、すべての相続権を手放す法的手続きです。家庭裁判所への申述が必要で、相続の開始を知った日から3か月以内に手続きしないと、原則として相続したものとみなされます。
住む予定のない空き家の維持費負担を避けたい方にとって、相続放棄は選択肢のひとつです。ただし、預貯金などプラスの財産も含めてすべてを失うため、空き家の負担だけが理由なら慎重な判断が必要です。
この記事では、相続した空き家を「相続放棄すべきか」という判断を軸に、放棄が向くケース・向かないケース、放棄後も残りうる管理責任、売却・活用で手放す選択肢までを整理します。
目次
相続放棄とは何か?

空き家の維持負担だけが理由なら、相続放棄は「最後の手段」です。放棄すると預貯金などプラスの財産もすべて失うため、まず売却・活用で手放せないかを検討し、負債が財産を上回る場合などに放棄を選ぶのが基本です。
一度相続放棄をすると、不動産や現金などのプラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産に関する権利も、まとめて失います。
相続放棄と財産放棄(遺産放棄)の違い
相続放棄が「相続する権利そのものを手放す」手続きなのに対し、財産放棄(遺産放棄)は、遺産分割協議の中で自分の取り分を放棄することを指します。
両者の大きな違いは、負債の扱いです。財産放棄で手放せるのはプラスの財産だけで、借金などマイナスの義務は引き続き負う可能性があります。負債から確実に逃れたいなら、相続放棄の申述が必要です。
相続放棄で対象となる財産
相続放棄をすると、以下のプラス・マイナス両方の財産に関する権利を、すべて手放すことになります(民法第896条)。
プラスの財産
- 不動産(土地・建物)とその所有権
- 現金・預貯金・金銭債権
- 車・家具・事業用設備
- 著作権・特許権などの各種権利
マイナスの財産(義務)
- 借入金・ローンの返済義務
- 未払い金の支払い義務
- 他人の債務に対する保証義務
相続放棄が向くケース・向かないケース
- 財産より借金・負債のほうが多い
- 空き家以外に相続したい財産がない
- 維持費・管理の負担が重く、活用も売却も難しい
- 預貯金など価値ある財産も一緒に相続する
- 空き家を売却・活用できる見込みがある
- 自分や家族が住む・使う予定がある
3個以上:相続放棄も選択肢です。ただし価値ある財産も失うため、司法書士・弁護士など専門家に相談のうえ判断を。
1〜2個:まず売却・活用で手放せないかの検討がおすすめ。空き家の相談窓口で整理できます。
0個:放棄のメリットは小さい可能性。活用・売却が有力な選択肢です。
相続放棄のメリット
①負債を相続せずに済む
財産より借金などの負債が大きい場合、相続放棄は有効な選択肢です。返済遅延による遅延損害金や、連帯保証人としての義務も相続されるため、明らかにマイナスとわかっているなら早めに判断しましょう。
②相続トラブルに巻き込まれない
相続放棄をすれば、遺産分割協議に参加する義務がなくなり、他の相続人との交渉や連絡も不要になります。相続人どうしのもめごとを避けたい場合にも有効です。
③管理の負担が続く不動産を手放せる
遠方の山林・農地・空き家などは、相続すると管理費用が継続的にかかります。とくに資産価値の低い空き家は、解体費用が売却額を上回ってしまうこともあります。こうした負担を避けたいときにも、相続放棄は選択肢になります。
相続放棄のデメリット

①限定承認が使える場合は損をする可能性がある
負債額がはっきりしない場合は、相続した財産の範囲内でのみ負債を負う「限定承認」もありますが、相続人全員の同意が必要で手続きの負担は大きめです。
②プラスの財産も含めてすべてを手放すことになる
相続放棄をすると、プラスの財産も含めてすべての相続権を失います。被相続人と同居していた場合、他に相続人がいなければ住む場所を失うリスクもあります。不利な遺産だけを選んで手放すことはできないため、保有したい財産がある場合は慎重に検討しましょう。
相続放棄しても、管理責任は残る?
相続放棄をしても、管理から必ず解放されるわけではありません。
2023年4月施行の改正民法940条により、放棄した時にその空き家を「現に占有」していた人は、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで、自分の財産と同じ注意をもって保存する義務を負います。一方、遠方に住み、鍵も管理も持たず占有していない場合は、原則この義務を負いません。
出典:民法第940条(2023年4月1日施行の改正)
相続放棄か、それ以外か——空き家の手放し方を比べる
| 手放し方 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 相続放棄 | 財産より負債が多い、他に相続したい財産がない | プラスの財産も含め全部を失う。家庭裁判所への申述が必要で、原則3か月以内 |
| 売却する | 現金化して管理負担から解放されたい | 更地にして売る場合は解体費がかかる。相続空き家の3,000万円特別控除が使える場合がある |
| 貸して活用する | 家を残したい、立地に賃貸需要がある | 修繕費や空室リスクを見込む。放置リスクを抑えつつ収入につながる可能性 |
相続放棄せずに土地だけ手放す方法として、相続土地国庫帰属制度(相続した土地を国に引き取ってもらう制度)もあります。ただし、建物が建っている土地は対象外です。空き家をこの制度で手放すには、解体して更地にする必要があり、審査手数料や負担金もかかります。そのため、空き家の場合はまず売却・活用・解体を検討するのが現実的です。
相続放棄の具体的な方法
相続放棄の手続きは以下の4ステップで完了します。
相続放棄の4ステップ
なお、申述は相続の開始を知った日から原則3か月以内(熟慮期間)に行う必要があります(民法第915条)。期限を過ぎると原則として相続したものとみなされるため、早めに準備を始めましょう。
①必要書類を集める
必要な書類は、申立人と被相続人の関係によって変わります。どの関係でも共通して必要なのは、次の基本3書類です。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申立人の戸籍謄本
関係性によって、これに加えて以下の書類が必要です。
| 申立人と被相続人の関係 | 必要な書類 |
|---|---|
| 全員共通(基本3書類) | 相続放棄申述書・被相続人の住民票除票または戸籍附票・申立人の戸籍謄本 |
| 配偶者 | 基本3書類+被相続人の死亡を証明する戸籍謄本 |
| 子・孫 | 基本3書類+被相続人の死亡を証明する戸籍謄本(孫の場合は本来の相続人の死亡証明も) |
| 両親・祖父母(直系尊属) | 基本3書類+被相続人の出生〜死亡時の戸籍謄本・子や直系尊属に死亡者がいる場合はその戸籍謄本 |
| 兄弟姉妹・甥姪 | 基本3書類+被相続人の出生〜死亡時の戸籍謄本・子や直系尊属の戸籍謄本(甥姪の場合は本来の相続人の死亡証明も) |
②家庭裁判所に申述書を提出する
書類が揃ったら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。申立人本人が行うのが原則で、未成年者の場合は親権者が代理できます。
期限は「自己のために相続の開始があったことを知った日」から3か月以内です。疎遠で被相続人の死亡を後から知った場合は、その知った日が起算点になるため、死亡から3か月を過ぎていても申し立てられることがあります。
③照会書に回答して返送する
申し立てが受理されると、約10日で裁判所から照会書が届きます。相続放棄の意思を確認する書類なので、必要事項を記入して返送します。
④相続放棄申述受理通知書を受け取る
照会書の返送から約10日で「相続放棄申述受理通知書」が届き、正式に相続放棄が認められます。再発行はできないため大切に保管し、紛失した場合は「相続放棄申述受理証明書」を別途取得します。
まとめ
相続した空き家で相続放棄を考えるなら、まず「本当に放棄が最適か」を確かめることが出発点です。放棄するとプラスの財産も含めてすべてを失ううえ、放棄時にその家を現に占有していれば、引き渡すまで管理責任(改正民法940条)が残ることもあります。空き家の負担だけが理由なら、放棄は最後の手段です。
とはいえ、「売れるのか」「貸せるのか」「放棄すべきか」を一人で見極めるのは難しいもの。アキサポは、売却・活用・手放し方まで含めて、空き家に合った方法を一緒に整理します。放棄すべきか迷っている段階でも、無料でご相談いただけます。
この記事の監修者
白崎 達也 アキサポ 空き家プランナー
一級建築士
中古住宅や使われなくなった建物の再活用に、20年以上携わってきました。
空き家には、建物や不動産の問題だけでなく、心の整理が難しいことも多くあります。あなたが前向きな一歩を踏み出せるよう、心を込めてサポートいたします。






